なお、この時期に同じような発想で先行しているのが、元々トランプ類税法の禁止が及ばずに自由な創作が可能であった「いろはかるた」の事例で、昭和後期(1945~89)に一千種類を超える「郷土かるた」が制作されたが、平成年間(1989~2019)になるとその数はさらに爆発的に増加した。ここには、各地の観光協会や趣味人の自主制作によるものもあるが、地域の小学校、中学校で制作が授業の課題に取り入れられたり、地域の教育委員会や自治体の企画として制作されたりするものも多い。平成二十三年(2011)度からは、全国の半数以上の小学校で採用されている出版社の小学校三年生の国語の教科書に教科書史上始めて「かるた」を題材にした文章が載って、こうした身辺のかるたを制作することが勧められていて、この風潮がさらに助長されている[1]。また、よい子かるたや交通安全かるたに始まった教育系のテーマを持ったかるたも、公害追放、人権反差別、介護福祉、安全食品保護などの数多くの社会問題などをテーマにして次々と発行されている。ここにはもちろん、地域文化の紹介、地域観光の手引きやマンガ、テレビ番組、ゲーム等の登場人物をテーマとしたキャラクターかるたも膨大な数で存在しており、オークション・サイトを覗くたびに、その多様性、活況振りに驚かされる。いろはかるた業界も、以前からのかるた屋の、子どものかるた離れや年々進む少子化を嘆く不振の時期を超えて、新参者が活躍する、個性ある百花繚乱の時期に入ったように見える。

花札に戻ろう。平成自由花札の場合、デザインも材質も制作者の自由な選択で進められているので、多くは切りっぱなしの手法で作られていて、札の大きさも、パッケージも自由に決めている。全体に、コストを抑えるためか安価な作りに苦心しているが、それでも十分に魅力的である。また、地方の文化をPRする「郷土花札」では、京都市のかるた屋に発注して本格的に仕立てたしっかりした作りのものもある。こうした多彩なチャレンジがもっと早くから始まっていれば花札の世界ももっと早くから楽しく、にぎやかになったであろうと思う。だが、今からでも遅くはないのであって、こうした新アイディアの花札は、花札の遊技が社会に広まる条件の一つ、魅力的な用器具の考案に繋がると思える。ここに花札再生の一つの可能性が見える。


[1]  江橋崇「かるた」『国語三下あおぞら』、光村図書、平成二十三年、七四頁。

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