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一 アナログな研究手法とデジタルな研究手法

平成三十年(2018)六月にこのホームページを立ち上げてから八か月たった。準備に手を着けた時期からするとほぼ丸一年経過している。江戸時代の日本は世界に冠たるかるた遊技の王国であり、江戸がそのセンターであるという私の歴史認識を全面的に展開できたという達成感がある。ただ、ホームページの構築は予想以上に大変な作業量で、著書数冊分の原稿と一千枚を超える画像とを用意することになった。私の作業も一苦労であったが、それ以上に、この巨大な情報量をサイトで表現することに尽力くださったデジタル技術の専門家の方々には、私の不敏、不明でおかけした余分な労苦の分も含めて、心からの感謝とお詫びを申し上げたい。この支援なしには、まったくアナログな昭和の人間である私だけでは到底実現できない新しい研究発表の形である。

今、歴史研究の世界は未曽有の転換点にあるように思う。一言で言えば、アナログな研究手法の時代が終わり、デジタルな研究手法への転換が急速に進行している。その基礎には、研究機関による、情報のデジタルな公開と相互利用の進展がある。国立国会図書館を中心にする全国の図書館、研究機関による文献史料の共通検索システムの構築、国文学研究資料館を中心にする「デジタル版の國書総目録」の作成、国立歴史民俗博物館などによる共同データベースの構築、各地の図書館や各研究機関による歴史情報のネット上での公開など、デジタルな研究環境は急速に整えられている。また、古文書の解読ソフト、日本語の外国語への翻訳ソフトも急速に進歩している。2020年代半ばころまでには、日本語の読めない外国の研究者であっても、自動翻訳ソフトを使って、大体のところであれば日本の歴史史料を閲覧し、活用することが可能になる。2030年代には、きわめて正確な翻訳ソフトの働きで、言語の壁がなくなる。それも、英語、中国語、ドイツ語のような主要な言語だけでなく、世界各国、各地の言語での理解が可能になる。AIの世界でも、ディープ・ラーニングの深化、進化により、分散され孤立されている史料の網羅的な探索、片隅に眠っている歴史情報の発掘と研究者への提供、新技術を駆使した統合的な研究成果の登場も期待されるが、他方で、論文などにおける誤情報の削除、そして、遺憾ながら後を絶たない盗用剽窃論文の摘発も進行するであろう。だから今後十数年の間に、紙媒体による情報の提供ももちろん無意味ではないけれども、デジタル情報を活用する研究の方が圧倒的に優位な時代がやってくると予測されるのである。

私は、遊技史研究の世界で、平成年間の最後のアナログな研究者としてではなく、次の年号最初期のデジタルな研究者として研究生活を閉じたいと念願している。このホームページの制作は、その第一歩であると思っている。だから、ここでは、閲覧者がデジタルな研究手法の効用を最大限に活用できるように、蒐集してきた文献史料と物品史料をなるべく広く公開し、フリーアクセス、フリーコピーとした。初めて世に出す秘蔵のコレクション・アイテムも多いし、入手に高額の費用を要したものも少なくないが、自由に活用してくださって結構である。文字情報はできる限り正確に入力したので、誤字率はこれまでのかるた史の文献よりも低いはずであり、先人の誤読に悩まされることも減るはずである。画像を自分で拡大して史料の細部まで点検することは、プリント・メディアでは実現できなかった研究者の夢であるが、ここではいとも簡単に実現できる。後世に、そこから新しい研究の芽が吹くことを心より期待している。