江戸のことば遊びと言えば「謎なぞ」も主役の一つである。当然、「謎なぞかるた」の遊技があり、それに用いるカードがあってよい。だが、これを長年探したが江戸時代のものは見つけることができていない。蒐集したのは明治年間前期(1868~87)に東京の金寿堂が制作、販売した「なぞなぞかるた」二組である。

 

そのうちの一組は、カードは縦六・〇センチ、横四・五センチで、赤色、桃色、黄色、緑色、空色、紫色、灰色の七色が木版で加色されている。畳紙の帯封である。内容は「いまの女郎トカケテ 亀井戸のはるトトク 心ハうそがおほい」というような大人向けの三段謎であり、昭和後期(1945~89)から平成期(1989~2019)に数多く出版されている子ども向けの教育かるた系「なぞなぞかるた」とは趣を異にしている。

 

もう一組のかるたは、カードは縦五・四センチ、横四・一センチで、赤色、空色の二色が木版で加色されている。畳紙の帯封である。内容はやはり明治前期(1868~87)の風俗を題材にした大人向けの三段謎であり、上に紹介したかるたより少し扱っている題材が古い。

 

 

金壽堂版「なぞなぞかるた①」

金壽堂版「なぞなぞかるた①」

金壽堂版「なぞなぞかるた②」

金壽堂版「なぞなぞかるた②」

両者に共通しているのは、なんといっても大人向けのかるたと言う性質である。いろはかるたは幼児の遊戯具という後世の観念は、この時代のものには当てはまらない。そして、いくつかの札の内容は、どちらかというと男性の好みに合わせてある。「金玉(きんたま)」などという言葉が幾度も出てくるし、「もう毛があるだろう」等という言葉は、男児であっても良いのに娘が取り上げられている。だが、男性がいろはかるたで遊ぶ情景はなかなか想像しにくく、むしろ、明治という新時代になって、女性たちも活発になっており、男性向けのかるたを、その露骨な文句に少し恥じらいの振りを示しつつも自分たちも楽しんだという展開の方が想像しやすい。こうした言葉遊びのかるたは、男女の区別なく使われたものだったのではないだろうか。

「なぞなぞかるた①」その3
「なぞなぞかるた①」その3(金壽堂)
「なぞなぞかるた①」その3
「なぞなぞかるた①」その3(金壽堂)
「なぞなぞかるた①」その1(金壽堂)
「なぞなぞかるた①」その1(金壽堂)
 

「なぞなぞかるた」①(金寿堂、明治前期)

 

「いまの女郎トカケテ 亀井戸のはるトトク 心ハうそがおほい」

「ろしやの国(くに)トカケテ 風(かぜ)ふきのばんト 心ハひのもとをだいじにする」

「はるのゆきトカケテ しゆすのたびトトク 心ハぢきとける」

「にほんの兵士(へいし)トカケテ ゆやのさんすけトトク 心ハたいてきをほろぼす」

「ぼッちゃんのはつのせつくトカケテ せんどうのはなしトトク 心ハ大きなこいをだす」

「べんけいの七ツだうぐトカケテ ばかむすめトトク 心ハ一生(せうの)せをいもの」

「としごろの娘(むすめ)トカケテゑざうし問(とひ)やトトク 心ハもうけがあるだろう」

「ちんもちトカケテ がすとうトトク 心ハくれにつく」

「りうきうのたんものトカケテ いいかほの親分(おやぶん)トトク 心ハかすりがおほい」

「ぬきみの刀(かたな)トカケテ 陸(りく)で桑名(くわな)へ行(ゆく)ひとトトク 心ハさやをたづぬる」

「るすにまつ人トカケテ 小野道風(のゝたうふう)トトク 心ハかへるをみてゐる」

「をしどりトカケテ あんまの大ゆかいトトク 心ハみづにういてゐる」

「わるい香(かう)せんトカケテ へたな芝居(しばゐ)トトク 心ハいりがすくない」

「かた田(た)の冬(ふゆ)げしきトカケテ ざんばつ床(どこ)トトク 心ハかりこんでゐる」

「ようかんトカケテ すだれやトトク 心ハあんでこしらへる」

「たま川の名所(めいしよ)トカケテ 七福(しちふく)人のきん玉トトク 心ハ六ツしかなひ」

「れんげさうトカケテ いろはの牛肉店(ぎうにくてん)トトク 心ハみたが一ばんだ」

「そろばん玉(だま)トカケテ いそぎの車夫(しやふ)トトク 心ハひいたりかけたり」

「つき合(あい)のよい人トカケテ ゆきのあしたトトク 心ハせけんがしろい」

「ねぞうのわるい下女(けぢよ)トカケテ 川(かは)でばゝアのせんたくトトク 心ハももがちらゝゝみへる」

「なすやうりをつくる百姓(ひやくせう)トカケテ 大祭(だいさい)日トトク 心ハはたがおほい」

「らくいんきよトカケテ へぼなはいかいしトトク 心ハさしたるくがない」

「むじんのくじトカケテ ほどのよいこたつトトク 心ハ誰(たれ)でも當(あた)りたがる」

「うけおいのやすぶしんトカケテ 新酒(しんしゆ)の下(くだ)りトトク 心ハいたみがはやい」

「ゐどやのしごとトカケテ いろごとトトク 心ハほれるほどふかくなる」

「のろけばなしトカケテ うまい牛肉(ぎうにく)トトク 心ハたれをきかせる」

「おくびやうものゝきんたまトカケテ 米(こめ)さうばトトク 心ハ上(あが)ッたり下(さが)ッたり」

「くだものトカケテ わるい辻占(つじうら)トトク 心ハきになるものだ」

「やぶの銀世界(ぎんせかい)トカケテ 仕立(したて)やトトク 心ハゆきたけつもる」

「まぬけなどろぼうトカケテ 引越(ひつこし)のあとおしトトク 心ハにぐるまにつかまる」

「けのないあたまトカケテ はづかしいとこのけがトトク 心ハいうにいわれぬ」

「ふじのゆきトカケテ むづかしいなぞトトク 心ハめつたにとけぬ」

「こわれたひばちトカケテ らう人ものトトク 心ハふちにはなれた」

「江戸(ど)川でつりする人トカケテ おあいやさんトトク 心ハこいをとつてゆく」

「てんぐのめんトカケテ みやまのさくらトトク 心ハはながたかい」

「あほうなやつトカケテ しかけたふしんトトク 心ハきがたりない」

「さるしばゐのあつもりトカケテ 浦島(うらしま)太郎トトク 心ハカメにのつてゐる」

「ぎしのようちトカケテ こみ合(あつ)たゆやトトク 心ハこうけをねらふ」

「ゆうだちトカケテ ちいさいすごろくトトク 心ハふりだすとぢき上る」

「めだまノおほきいやくしやトカケテ 真間(まま)の兵営(へいえい)トトク 心ハ市川の一ばんうへだ」

「みつめぎりトカケテ だうらくむすこのおやトトク 心ハきをもむ」

「しんばうのよいばうさんトカケテ 巳(み)のこくまへトトク 心ハやがて十時(じ)になる」

「ゑん日あきうどトカケテ へぼげいしやトトク 心ハおふらいでまうける」

「ひとごみをぼんやりあるく人トカケテ マッチトトク 心ハすりつける」

「もう人のこんれいトカケテ さかなのるいトトク 心ハみずにすむ」

「せいやう人のつけぶみトカケテ しうとばゞアトトク 心ハよめにくゝッてたまらぬ」

「すまふとりトカケテ ぢやのめのはたトトク 心ハかとうとおもふ」

「京都(きやうと)の名所(めいしよ)トカケテ せとものやのじしんトトク 心ハぶつかくがおほい」

 

「なぞなぞかるた②」その3
「なぞなぞかるた②」その3(金壽堂)
「なぞなぞかるた②」その2(金壽堂)
「なぞなぞかるた②」その1
「なぞなぞかるた②」その3(金壽堂)

 

「なぞなぞかるた」②(金寿堂、明治前期)

 

「いまどやきトカケテ 天(てん)りう川(がわ)トトク 心ハかはらもあり」

「ろう人のあたまトカケテ べんきやうのみせトトク 心ハもうけがうすい」

「ばしやのうまトカケテ 天長節(てんちやうせつ)のあくるひトトク 心ハはたがみえぬ」

「にわかあめトカケテ みじかいすごろくトトク 心ハじきにあがる」

「ぼうさんのしんぼうトカケテ 九時五十分(くじごじつぷん)トトク 心ハやがて十時(じ)(じ)になる」

「へたな大工(だいく)トカケテ くだりのしんしゆトトク 心ハ伊丹(いたみ)がはやい」

「どう中(ちう)すご六トカケテ ひやかし客(きやく)トトク 心ハまわつてあがる」

「ちんもちトカケテ がすとうトトク 心ハくれにつく」

「りんきぶかい女房(にようぼう)トカケテ 浅間(あさま)やまトトク 心ハしじうやけてゐる」

「ぬす人のまぬけトカケテ ひつこしのてつだひトトク 心ハ荷車(にぐるま)につかまる」

「るすの内(うち)トカケテ かどをまもるけものトトク 心ハいぬだ」

「男子(をとこのこ)のせつくトカケテ うまかたのはなしトトク 心ハ大(おほ)きなこひだ」

「わがくにトカケテ ふゆの用心(ようじん)トトク 心ハひのもとだ」

「かたいむすこトカケテ 上市(よし)の渡し(わたし)トトク 心ハ六田(むだ)ハ見(み)ぬ」

「よこもじのてがミトカケテ しうとばゞアトトク 心ハよめにくい」

「たわら藤太(とうた)トカケテ ゆで玉子(たまご)トトク 心ハむかでかなわぬ」

「れん木(ぎ)トカケテ しろうのさうばしトトク 心ハすつてゐる」

「そばのちそうトカケテ かたいやくそくトトク 心ハのびてはいかぬ」

「つじうらせんべいトカケテ ゆうびんばこトトク 心ハいろゝゝのもんくがてる」

「ねのやすいすみだはらトカケテ さびしいしば居(ゐ)トトク 心ハいりがない」

「なつの川ざらひトカケテ よくうれるあきんどトトク 心ハもうかつた」

「らうにんものトカケテ こわれたぼんトトク 心ハふちがはなれた」

「むひつのてがみトカケテ 洋(やう)ふくののミトトク 心ハかくにかゝれぬ」

「うしなべトカケテ のろけばなしトトク 心ハたれをきかせる」

「ゐのしゝトカケテ めくらのよめトトク 心ハむこをみづだ」

「のらくらむすこトカケテ 弁けいの七ツだうぐトトク 心ハ一生(せう)のせをいもの」

「おびのむすびめトカケテ ふじのうら山(やま)トトク 心ハかひの口(くち)だ」

「くらうせうのよめトカケテ ざんぎりあたまトトク 心ハいうにいわれぬ」

「まつちトカケテ ひとごみトトク 心ハすりつける」

「げいしやのうれつこトカケテ 浅草(あさくさ)の仲見世(なかみせ)トトク 心ハわうらいがおほい」

「けんじゆつのへぼトカケテ 書生(しよせい)のはをりトトク 心ハかすりがおほい」

「ふうせんトカケテ どうらくむすこトトク 心ハうわついてゐる」

「ごみぶねのせんどうトカケテ さみせんのねトトク 心ハちりつんだ」

「えのぐざらトカケテ うわきむすめトトク 心ハいろゝゝないろがある」

「でんしんトカケテ はたけのとうなすトトク 心ハつるがたよりだ」

「あほうな人トカケテ しかけのふしんトトク 心ハ木(き)がたりない」

「さいの目(め)トカケテ 七ふく人のきん玉トトク 心ハ六ツぎりだ」

「きものゝしたてトカケテ やぶのゆきトトク 心ハゆき竹(たけ)つもる」

「ゆきの梅トカケテ てのある女ら(じよらう)トトク 心ハうつくしくふる」

「めくらのいそぎの用(よう)トカケテ じようきせんトトク 心ハみづにはしる」

「みつめぎりトカケテ やまのあらしトトク 心ハ木(き)がもめる」

「しじうからのいろぐるひトカケテ なつのあめトトク 心ハきうにはやまない」

「ゑんむすびトカケテ おつもりのさけトトク 心ハおつとがきまつた」

「ひのないところトカケテ めりのおほいむじんトトク 心ハあたつてもつまらぬ」

「もちのないしるこトカケテ かあいゝ子(こ)のたびトトク 心ハあんじるばかりだ」

「せんじやうトカケテ てうちそばトトク 心ハうつたりきつたり」

「すもうのかちトカケテ よしの山トトク 心ハ花がたくさん」

「京都(きやうと)の名所(めいしよ)トカケテ せとものやのじしんトトク 心ハぶつかくがおほい」

 

このように、江戸時代後期(1789~1854)から明治前期(1868~1887)にかけて出版された「謎なぞかるた」は、明治二十年代(1887~96)以降、学校教育の整備にともなって副教材のように出版された子ども向けの教育かるた系「なぞなぞかるた」とは趣を異にしている。今後さらに史料が発掘されて、大人向けのことば遊びかるたの楽しさが再現されることが期待される。

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