七 ローマ字表記のいろはかるた

このように出版広告では英語と並んでローマ字の学習が取り上げられているが、これに関連して、明治前期(1868~87)の不思議なローマ字付きいろはかるたを紹介しておこう。これは、絵札の図像がほとんど女性中心であり、女児向けの教育的ないろはかるたであるが、いろはの頭文字の下に、同じように丸く囲ったローマ字表記がある。明治前期(1868~87)には、まだ標準的なローマ字表記が定まっておらず、ヘボン式もはじまったばかりであったから、表記に揺れがあってもおかしくないが、このかるたの場合は、「え」は「YE」、「ゑ」も同じ「YE」であり、「か」は「CA」、「こ」は「CO」である。これは古式ゆかしいポルトガル式のローマ字表記法である。ただ、「き」が「KI」、「く」が「KU」、「け」が「KE」であるなど、ポルトガル式から逸脱してもっと近代的な表記になっている部分もある。「ち」は「THI」なのに「つ」は「TU」で「て」は「TE」である。「う」は江戸時代から「MU」と表記された例が多いが、このかるたでは「WU」と独特の表記である。この時期のローマ字教育の混乱を反映していて興味深い。また、採録されている譬えは、いかにも女児に説くしつけ、修身の説教臭いものが多いが、中には男性目線でのしつけの文句もあるし、「渡世の得意は金の蔓」、「留守居の昼寝は猫が鳴く」、「酒の肴は有り合いが良い」、「白酒で娘の顔は金太郎」、「空き腹で虫が鳴くズドン前」など、どういう譬えなのか、採録の趣旨が分からないものもある。

ローマ字付「いろは譬えかるた」③
ローマ字付「いろは譬えかるた」②
ローマ字付「いろは譬えかるた」①

い(I) いろはたん歌(か)はちゑのがくもん

ろ(RO) ろくでなしの能(よい)ものずき

は(HA)  はな嫁(よめ)もみのればしうと

に(NI)  にあはぬ妹背(いもせ)はふゑんのもと

ほ(HO)  ほうゆうはたがひにしんぎ

へ(HE) へいきであきれが礼(れい)にくる

と(TO) とせいのとくいは金のつる

ち(THI) ちをのむ子にはあまきをいめ

り(RI) りしもつもれば元(もと)にます

ぬ(NU) ぬれぬさきには露(つゆ)をもいとふ

る(RU) るすいの昼寝(ひるね)は猫(ねこ)がなく

を(O) をいそれものは大事(だいじ)をとげず

わ(WA) われたきづは一生いえず

か(CA) かない安全日曜(にちよう)の夫婦づれ

よ(YO) よくからはまるおとし穴

た(TA) たのもしきは親子(おやこ)の朝きげん

れ(RE) れいぎもすぐれば不禮(ふれい)となる

そ(SO) その身になつく牛馬(ぎうは)をつかえ

つ(TU) つのあるものへは牙(きば)をあたへず

ね(NE) ねづかぬ植(うへ)木は実(み)がならず

な(NA) なまけ書生(しよせい)の末(すへ)は車夫(しやふ)

ら(RA) らくだいしたら夜をひにまなべ

む(MU) むだぐちぎゝの長(なが)ッ尻(ちり)

う(WU) うけたる恩は友もわすれず

ゐ(I) ゐ戸(ど)は陋屋の福(ふく)の神(かみ)

の(NO) のらくら者のせつきばたらき

お(O) おどしもなれては鳥がとまる

く(KU) くすりもすぐれば毒(どく)となる

や(YA) やけぼつくいは火かつきやすし

ま(MA) またをくぐつたちゑはかんしん

け(KE) けんやくは寶(たから)のとつとき

ふ(HU) ふですみは心のつかひ

こ(CO) ことばづかひでそだちがしれる

え(YE) えくぼの穴に虎(とら)がすむ

て(TE) てあしの車(くるま)は税(ぜい)がでず

あ(A) あほう烏(からす)は畑のみほる

さ(SA) さけのさかなはありあひがよし

き(KI) きをはけめば病(やまひ)おこる

ゆ(YU) ゆきあふ道は左りへよける

め(ME) めでみぬところはちゑでみる

み(MI) みがいてわろきはかんしやく玉

し(SHI) しろざけで娘(むすめ)の顔(かほ)は金太郎

ゑ(YE) ゑにある餅(もち)はみたばかり

ひ(HI) ひとくひ馬にものつてみよ

も(MO) もぬけるわざは性(せい)による

せ(SE) せたいは家のゆづりもの

す(SU) すき腹(はら)でむしがなくヅドンまへ

京(KIYOU) 京はおり物仕立はあづま