十一 キャサリン・ペリー・ハーグレイブ

ハーグレーブ『プレイング・カードの歴史』
ハーグレーブ『プレイング・カードの歴史』

二十世紀の世界のカード研究者の世界で最も高い評価を得ていた著作の一つが、1930年に刊行されたキャサリン・ペリー・ハーグレイブ(Catherine Perry Hargrave)の『プレイング・カードの歴史』[1]である。同書はU.S.プレイング・カード社付属博物館の事業の一環として公刊されたものであるが、日本に関しても、花札十九組、「Winter Cherry」二組があるとされている。このWinter Cherry、日本語で言えばホオズキが何を意味するのかが長らく疑問であったが、同博物館で実地に調査したところでは、明治年間の「福徳」タイプのめくりカルタであり、同書に写真が載せられているものは消失しており、もう一組の京都の赤田というカルタ屋の製品が残されていた。「ほおずき」の意味は不明であるが、たぶん、包装紙に「大統領」や「天狗」などと同様の商品名として記載されていた文字ないしそれの誤読であろうと推測された。

なお、同書には、花札二組の図像が掲載されている。一組は、古いタイプの和歌の付いた花札十六枚のカラー図像であり、もう一組は四ページを費やすほどの力の入れようであるが、「翠山堂」というカルタ屋の、新しい「八八花札」である。これには図像の過渡期の特徴が残っており、特に紋標「松」の鶴が二羽のつがいであることが他に例のないところである。興味深いのはハーグレイブが寄せた解説の文章であり、乏しい情報を基にこのカルタの構成を理解して説明しようとして苦闘している。十二の紋標が日本の十二か月を示すとは書いてあるが、「一月」「二月」ではなく「睦月」「如月」と説明されたためであろうか、first month、second monthであって、January、Februaryではないのが面白い。紋標の説明では「萩」がクローバーとなっており、これは図像を見てのハーグレイブに特有の理解であろうと思われるが、「菖蒲」では、「八つ橋」が「菖蒲に蛍」とされており、しかしこのカードの図像にはどこにも「蛍」がないので、なぜこのように理解したのかが不可解であった。後に私は、明治二十年代(1887~96)初期の「上方屋」のに解説書の中でごく一部のものに「菖蒲に蛍」としていたものがあることを発見し、この疑問は氷解した。また「柳」では、最近のものには「冒険をする蛙と傘をさす旅人」があるが、古いものには「蛙」が登場していないと指摘している。「武蔵野」タイプの花札から「八八花札」タイプへの過渡期の目撃証言である。

「ハーグレイブの花札」は、残念なことに色彩を欠く白黒写真の図像であったが、二十一世紀になってからアメリカでこれをカラー図像にしたものが制作された。以前に私がアメリカで現地調査した際にはこの花札は行方不明で現存が確認できなかったので、どこかでそれを確認できたのかと嬉しく思ったが、実際の図像を見ると、「薄に満月」の図像や「柳」の図像に奇妙な誤解があり、どうやらこの花札に独自解釈で彩色を施した気配があり、少々失望した。


[1] Catherine Perry Hargrave, “A HISTORY OF PLAYING CARDS AND A BIBLIOGRAPHY OF CARDS AND GAMING”,Houghton Mifflin Company,1930.

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