(三)「粋ことばいろはかるた」の成立

私の手元には、さらに、江戸時代後期(1789~1854)の上方、屋号「かねカ」版の「しんはんすいことばたとゑいろは」上下二枚の骨摺りがある。下端に「此所ふりはしめ」とあるが、絵双六としてどのように機能するのかは分からない。内容的には、江戸時代後期(1789~1854)の文芸に共通する特徴であるが、いろは順に整理する作法が実現されていて、それがまだなかった「すいことば花月遊」よりは時代が下がることが分かる。これが、完成された商品であったのかどうかは確証はないが、もしそうだとすると、この種の娯楽印刷物を多色彩でカラフルにして販売することを奢侈の禁止として取り締まった天保年間(1830~44)の天保の改革の時期のものと推測されることになる。内容は次のようなものである。

「しんぱんすいことばたとゑいろは・下」(かねカ版)
「しんぱんすいことばたとゑいろは・上」(かねカ版)

 

「しんはんすいことばたとゑいろは」(「かねカ」版、江戸時代後期)

此所ふりはしめ

「いもやのはかりで目でころしてじや(芋屋の秤で目で殺して(目で殺す)じゃ)」

「ろつひきねずみでむちうじや(六匹鼠で六ちゅう(夢中)じゃ)」

「はつのみのまないたでゑらあぶらじや(はつの身の俎板で鰓(えら)脂じゃ)」

「にわかのくろごでくびだけじや(俄の黒子で首だけ(首ったけ)じゃ)」

「ぼんさまのあたまでゆうところがない(坊さまの頭で結う所(言うところ)がない)」

「へたなあみうちでいなしてじや(下手な網打ちでいなしてじゃ)」

「とんびのふんでかゝりしだいじや(鳶の糞で掛かり次第じゃ)」

「ちろりのさけでのぢがない(ちろりの酒でのぢがない)」

「りんきがすぎておいとまじや(悋気が過ぎてお暇じゃ)」

「ぬりばしとろゝでいつこうかからん(塗り箸とろろで一向掛からん)」

「るすのまのかきだしでくゝりつけられじや(留守の間の書き出しで括り付けられじゃ)」

「をしやかのうぶゆであまいおかたじや(お釈迦の産湯で甘いお方じゃ)」

「わりきにおひつできのままじや(割り木にお櫃で木の儘(気の侭)じゃ)」

「かいるのぎやうれつでむかふがみへぬ(蛙の行列で向こうが見えぬ)」

「ようづのさかなでみがいんでじや(養うづの魚で身がいんでじゃ)」

「だるまのかけぢでこしがない(達磨の掛け軸で腰がない)」

「れんじまどでてらされてじや(櫺子窓で照らされてじゃ)」

「ぞめきのひきずりでうすなつてじや(騒きの引き摺りで薄なってじゃ)」

「つきみのねずみていもひいてしや(月見の鼠で芋引いてじゃ)」

「ねずみのますとりでちうばかりじや(鼠の升取りでちゅう秤(忠ばかり)じゃ)」

「ながしのたきゞできがわるひ(流しの薪で木が悪い(気が悪い))」

「らしやうもんでつかみたがる(羅生門で掴みたがる)」

「むめぼしのおかずですいがつてじや(梅干しのおかずで酸い勝手(好き勝手)じや)」

「うへきやのにはできがおほい(植木屋の庭で木が多い(気が多い))」

「ゐしかきのうなぎであなづつてじや(石垣の鰻で穴筒てじゃ)」

「のりかいものでみにつかぬ人じや(糊かい(乗換い)もので身に付かぬ人じゃ)」

「おしろのほりでそこがしれぬ(お城の堀で底が知れぬ)」

「くるまきつるべででかつてじや(くるまき釣瓶で出勝手じゃ)」

「やもめのぎやうずいでゆとりがない(鰥夫の行水で湯取りがない(ゆとりがない))」

「まいのけいこでつんゝゝじや(舞の稽古でつんつんじゃ)」

「げいこのとこいりでひらいものじや(芸子の床入りで拾いものじゃ)」

「ふろやのていしゆでたかみから見てじや(風呂屋の亭主で高見から見てじゃ)」

「こじきの正月できたなりじや(乞食の正月できたなり(着たなり)じゃ」

「えどのかつをでうまいわろじや(江戸の鰹でうまいわろじゃ)」

「てらこのひるあがりでみうちがくろい(寺子の昼上がりで身内が黒い)」

「あしよはのいせまいりでむまかつた(足弱の伊勢参りで馬買った(美味かった))」

「さるのしばいでわけがしれぬ(猿の芝居で訳が知れぬ)」

「きつねのうぶやでさんくはいじや(狐の産屋でさんくはいじゃ)」

「ゆうだちぐもでべつたりじや(夕立雲でべったりじゃ)」

「めんのかたでつちがはなれぬ(面の型で土が離れぬ)」

「みいでらのくすできがおゝきい(三井寺の楠で木が大きい(気が大きい))」

「しろざけのさかずきてえらなめじや(白酒の盃でゑら舐めじゃ)」

「ゑびすのとんどでさゝやいてじや(恵比寿のとんどで笹焼いて(囁いて)じゃ」

「ひいけのたどんでつちがのかぬ(火活けの炭団で土が退かぬ)」

「もへくい水でしゆつときへじや(燃え杭水でしゅっと消えじゃ)」

「せんだいぜにでかどがある(仙台銭で角がある)」

「すもふとりのふともゝですれゆうてじや(相撲取りの太股で擦れゆうてじゃ)」

「京ざいくでこまかい人じや(京細工で細かい人じゃ)」