「蕉門俳諧合せかるた」

「蕉門俳諧合せかるた」
(制作者不明)

 

江戸の町には、雑俳、川柳、狂歌、狂詩などの雑文学や、小唄、端唄、新内節、都々逸などの俗曲が溢れており、これらも大人向けのかるたの格好の題材であった。こうしたかるた類については記録もあり、また、何点かはカードも残存している。

 

これらのカードでは「見立て」「もじり」「駄洒落」が満載で、いかにも「ことば遊び」、口承文芸が好きな江戸の文化物らしい趣である。その一例として、入江文庫にあるのが「山田庄兵衛」刊の俳句かるた、「名句いろは合せ智恵かるた」である。これは芭蕉門下の俳人の作品を集めたかるたであり、芭蕉、其角、嵐雪、千代女などが各々、四、五句採録されている。同様な趣向で私の手元にあるのが「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)である。

 

このかるたは、カードが縦六・三センチ、横四・二センチの木版摺りで、俳諧がいろは順に揃えられており、字札のカードと絵札のカードで構成されている。字札のカードには、芭蕉一門の俳人の俳諧一句と作者の俳号、それに丸く囲った冠字があり、絵札のカードには、俳諧の内容に沿った画と丸く囲った冠字がある。絵札に冠字があるのは、これがないと遊技で読み手によって読み上げられた俳諧に該当する絵札のカードが分かりにくくて混乱が起きるからそれを防止する趣旨であろう。字札のカードが二枚欠落しているが、次のようなものである。

 

「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)その3
「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)その3 (制作者不明)
「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)その2 (制作者不明)
「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)その1
「蕉門俳諧合せかるた」(仮称)その1 (制作者不明)

 

「蕉門俳諧合せかるた」

 

いざ折(をり)て 人中(ひとなか)見(み)せん 山(やま)ざくら  一鉄

臘八(ろうはち)や けさ雑炊(ざふすゐ)の 蕪(かぶ)の味(あち)  惟然

はる風(かぜ)や 三保(ほ)の松原(まつばら) 清見寺(せいけんじ)  鬼貫

仁王門(にわうもん) 越(こ)して鶯(うぐひす) 聞(きこ)えけり  昄[1]

帆柱(ほばしら)に 帆(ほ)のもたれけり 春(はる)の海(うみ)(うみ)  蓼太

蛇(へび)喰(く)ふと 聞(き)けばおそろし 雉子(きじ)の声(こゑ)  はせを

とし玉に 梅(うめ)折(を)る小野(をの)の 翁(おきな)かな 言水

ちる度(たび)に 児(ちご)でひろひぬ けしの花(はな)  吉次

陸(りく)と舟(ふね) 連(つれ)てひとつの 花見(はなみ)かな  五蓼

ぬま染(そめ)を 手(た)くればはねる 柳(やなぎ)かな  嵐外

るす頼(たの)む 隣(とな)りも花見(はなみ) 支度(したく)かな  芦友

をのこには 無理(むり)いふて雛(ひな) かざりけり  樗堂

若水(わかみづ)に 智恵(ちゑ)の鏡(かゞみ)を 磨(みがく)ばや  嵐雪

鐘(かね)ひとつ うれぬ日はなし 江戸のはる  其角

世(よ)の中(なか)や 蝶々(てふてふ)とまれ かくもあれ  宗因

田鼡(たねずみ)や 春(はる)に皷(つゞみ)の 衣(ころも)がへ  梅室

連翹(れんぎやう)や 柳(やなぎ)の枝(えだ)に 山吹(やまぶき)を  湖春

そなたにも 女房(にようぼ)呼(よば)せむ 水祝(みづいは)ひ  其角

つ・(欠)

寝道具(ねどうぐ)を そつとはこぶや 昼(ひる)の前(まへ)  荷舎

七種(なゝくさ)や 明(あけ)ぬに聟(むこ)の まくらもと  其角

蘭(らん)の香(か)や 取次(とりつぎ)まちし 一間(ひとま)先(さき)  曲阜

むつましい 中とはみえず 猫(ねこ)の恋(こひ)  暁臺

うでくびに 蜂(はち)の巣(す)懸(かか)る 二王(にわう)かな  松芽  

井(ゐ)の端(はた)の 桜(さくら)あぶなし 酒(さけ)のゑひ  秋色

のり合(あひ)や 眠(ねむ)りさませバ 蜆汁(しゞみじる)  助宣

大津画(おほつゑ)の筆(ふで)のはじめは何佛(なにぼとけ)  はせを

元日(ぐわんじつ)や はれて雀(すゞめ)の ものがたり  嵐雪

やり羽子(はご)や まだ恋(こひ)しらぬ 妹(いも)がふり  利牛

萬歳(まんざい)や 休(やす)みがてらの 本圀寺(ほんこくじ)  梅室

下戸役(げこやく)に 荷仕舞(にしまひ)するや 花(はな)の影(かげ)  一映

古池(ふるいけ)や 蛙(かわづ)飛込(とびこ)む 水(みづ)の音(おと) はせを

これ迄(まで)か これ迄(まで)かとて 春(はる)の雪(ゆき)  支考

江(え)のうへや 二人(ふたり)してをる 梅(うめ)のはな  士朗

蝶々(てふゝゝ)が 女の道(みち)の 跡(あと)や先(さき)  千代尼

朝○[2](あさがほ)や 釣瓶(つるべ)とられて もらひ水(みづ) 千代尼

三月と 文(ふみ)に書(か)くのも 名残(なごり)かな  去来

黄菊(きぎく)白(しら)ぎく 其外(そのほか)の名(な)は なくもがな  嵐雪

行水(ゆくみづ)や 何(なに)にとゞまる 海苔(のり)の味(あぢ)  其角

(欠)・名月(めいげつ)や池(いけ)をめぐりて夜(よ)もすがら はせを か?

水音(みづおと)も 角(かど)なくなりて 百千鳥(もゝちどり)  東溟

時雨(しぐれ)する 度(たび)にもの煮(に)る 山家(やまが)かな  梅室

酔(ゑ)ふ事は 天下(てんか)晴(はれ)たり 花(はな)の山  鳥酔

一雫(ひとしづく) するや朝日(あさひ)の ふく寿草(じゆさう)  蒼劺

餅(もち)くはぬ 旅人(たびひと)はなし 桃(もも)の花(はな)  支考

せい出して 摘(つむ)ともみへぬ 若菜(わかな)かな  野水

すたすたと 摘(つむ)やつまずや 土筆(つくゞゝし)  其角

京(きやう)の町(まち) 牛(うし)も日永(ひなが)の 歩行(あゆみ)かな 芦友

 


 

[1] 「昄」の字は「白」に「反」。

 

[2] 上部は白、下部は八

おすすめの記事