四 化け物かるた

武者かるたと対照的に、子どもに分かりやすくて人気があったのが「化け物かるた」である。これについては江戸時代中期までの時期のかるた札の遺品が未発見で、江戸後期以降に江戸で発達した絵合せかるたであろうと推測されている。「化け物かるた」はさまざまな「化け物」をいろは順にそろえて採録しているが、「化け物」の名称ではいろは四十八文字に対応できる四十八種の「化け物」をきれいに揃えるのは難しい。そこでこの時期のかるたでは、適切な言葉を添えることでいろは順を実現する工夫が凝らされている。文字札は平仮名書きのものが多く、子どもの遊技具に徹する姿勢が見える。

三十六歌仙化け物かるた

 

これからそれを紹介していきたいが、その前に例外的な大人向けの「化け物かるた」を紹介しておきたい。平成二十八年に国立歴史民俗博物館で展示された「化け物かるた」である。これは、江戸時代後期の木版のもので、三十六対・七十二枚で構成されている。この数から容易に想像できるように、文字札には、三十六歌仙の和歌をもじって、化け物に関する狂歌に仕立ててあり、絵札には、それに対応する化け物の図像の戯画が描かれている。だからより正確に言えば「三十六歌仙化け物かるた」ということになる。絵札には、化け物の名称もないし、後の「いろは化け物かるた」の様な頭文字の記載もない。このかるたを楽しむには、まず、三十六歌仙の和歌、三十六首を諳んじてい留必要がある。それがないと、例えば源順(みなもとのしたごう)の和歌「水の面に照る月なみを数ふれば 今宵ぞ秋の最中なりける」がカワウソの化物の歌「水の面におる川うそもとしふれば 人をたふらす最中成ける」に変じた面白さが楽しめない。一方、絵札はノーヒントであるから、図像そのものを見比べてこの例で言えばカワウソの図像を見つけ出して合わせなければならない。明らかに、大人向けの「化け物かるた」である。なお、かるたのサイズは小型で、百人一首かるたや通常の絵合せかるたの半分の大きさである。畳の上に広げて楽しむには小さすぎるのであって、手に持って遊ぶ、酒席の趣向品のような趣がある。

江戸末期化け物かるた(
紙の博物館蔵、『歌留多』)

そこで、子ども向けの「化け物かるた」であるが、江戸時代後期、幕末期のものについては、多田克己が『江戸妖怪かるた』[1]で、個人蔵のものと、東京の「紙の博物館」蔵のもの、東京国立博物館蔵のものの三点を詳細に紹介し、研究している。このほかに、国際日本文化研究所蔵の金松堂、辻岡文助製のもの、国立歴史民俗博物館蔵の「おばけかるた」もある。明治期に入っても、江戸の「化け物かるた」の最後を飾るような木版のものが何点か出版されている。私の手元には二点ある。一つは長谷川忠兵衛版の「化け物かるた」(以下、江橋蔵1)である。これは明治十七年(1884)の製品であり、その内容は上記の金松堂、辻岡文助製の歌川艶長(一橋斎艶長)画になる「化け物かるた」の粗略なコピー品である。もう一組は、少し後の時期の「おばけかるた」(江橋蔵2)である。これには制作者の表示はない。これは、他の「化け物かるた」と内容に相当の違いがあり、この時期に新たにこのような改定を施したとは思い難いので、別系統の「化け物かるた」である可能性が高い。なお、このかるたには、明治中期(1887~1903)の流行である「ふくのかみさづかる人えくわし一つ御そなふべし(福の神授かる人へ菓子一つ御供うべし)」という絵札、文字札が添付されている。

ここで、以上で扱った「化け物かるた」の内容を比較してみたい。併せて、図像は、紙の博物館蔵品、東京国立博物館蔵品、『江戸妖怪かるた』の個人蔵品はいずれも多田克己『江戸妖怪かるた』に掲載されており、日文研所蔵品、歴博所蔵品もネット上で公開されているので省略し、ここでは、残りの二点、架蔵のものを載せておきたい。

江戸時代末期化け物かるた
(東京国立博物館蔵、
『日本の歴史』12号)

お化けかるた一覧
(1)「ばけ物かるた」東京国立博物館蔵品(制作者不明、江戸後期)
(2)「お化けかるた」紙の博物館蔵品(制作者不明、江戸末期)
(3)「妖怪かるた」『江戸妖怪かるた』掲載品(制作者不明、江戸後期)
(4)「化物かるた」国際日本文化研究所蔵品(金松堂・辻岡文助製、江戸後期)
(5)「おばけかるた」国立歴史民俗博物館蔵品(制作者不明、万延元年)
(6)「化物かるた」架蔵品(長谷川忠兵衛製、明治十七年)
(7)「おばけかるた」架蔵品(制作者不明、明治中期)

「い」
(1)いぬ神祈るくびのいけにえ
(2)欠
(3)いどから出るさらやしき
(4)いどからでるさらやしき
(5)いどから出るさらやしき
(6)いとから出(で)るさらやしき
(7)いぬかみやまのいぬ
「ろ」
(1)ろくろくびのむりのび
(2)欠
(3)ろくろくびのあぶらなめ
(4)ろくろくひのびやうぶごし
(5)ろくろくび
(6)ろくろくびのびやうぶごし
(7)ろくろくび
「は」
(1)はつ骨しやれてつゆ尾花
(2)ばんしう皿やしき
(3)はにふむらのかさね
(4)はにふむらのかさね
(5)はさみむしのおばけ 
(6)はにふむらのかさね
(7)ばんてうさらやしき
「に」
(1)にくひやつをば喰ころせ
(2)日坂山もゝんぢい
(3)にかいからでるももんじい
(4)にかいからでるもゝんがあ
(5)にんめんそう
(6)にかいからでるもゝんがあ
(7)につたよしをきのおんりやう
「ほ」              
(1)欠
(2)本所のおいてけぼり
(3)ほん所のおいてけぼり
(4)ほん所のをいてけぼり
(5)ほん所をのをいてけぼり
(6)ほん所のおいてけぼり
(7)ほんしやうおいてけほり
「へ」
(1)へびくふ雉子(きじ)は無間(むげん)山
(2)へまむしよ入道
(3)へいごしのゆうれい
(4)へいからでるゆうれい
(5)へいけがに
(6)へいからでるゆうれい
(7)へまむしよにうどふ
「と」
(1)とうをまげたる地震怪
(2)とさの山ごへのどゝ目鬼
(3)とさの海のようぐわい
(4)とこあらつてまくらかへし
(5)とうふこぞう
(6)とこをもつてまくらがへし
(7)とふふなめこぞふ

「ち」
(1)ちくしやう道のだちんむま
(2)ちやうちん小僧
(3)ちやうちん小増
(4)ちやのみゆうれい
(5)ちのいけぢごく
(6)ちやのみゆうれい
(7)ちうおとふひとだま

「り」
(1)りんきの角ふるうわなり女(め)
(2)りよくのしんくわ
(3)りよくのしんくわ
(4)りよくのしんくは
(5)りすのをばけ
(6)りよくのしんくわ
(7)りよくのしんくわ

「ぬ」
(1)ぬらりと抜出るぬれ女
(2)ぬえ紫宸殿に出る
(3)ぬへのばけ物
(4)ぬき下のうぶめ
(5)ぬれぼとけ
(6)ぬき下のうぶめ
(7)ぬゑしゝんでんにでる
「る」
(1)るすには開るな化物葛籠(つづら)
(2)欠
(3)るすの間に出るばけ物
(4)るすの間に出るばけもの
(5)るすにでるたぬき
(6)るすの間(ま)に出(で)るばけもの
(7)るいゝゝたるはつこつ
「を」
(1)をんねん鎌の刃ふむ
(2)をうしうの小はだ小平治
(3)をかざきのねこでらのくわい
(4)をかさきのはけねこ
(5)をんなのいちねん
(6)をかざきのばけねこ
(7)をかざきのおゝねこ
「わ」
(1)欠
(2)わたによくにた雪女郎
(3)わらいはんにや
(4)わらいはんにや
(5)わら人形のばけたの
(6)わらひはんにや
(7)わらいはんにや
「か」
(1)かぜの神つく窮奇(かまいたち)
(2)かつぱ川太郎
(3)かめやまのばけ物
(4)かくれざとお
(5)かさね
(6)かくれざとう
(7)からかさのくわい
「よ」
(1)欠
(2)よつやのおいわ
(3)よつやのおいわ
(4)欠(よつやのおいわ?)
(5)よたかのばけたの
(6)よつやのおいわ
(7)よつやのおいわ
「た」
(1)たそがれどきのあぶら買
(2)たて川の一ツ目小ぞう
(3)たぬきのはらつゞみ
(4)たぬきのおどかし
(5)たこの入道
(6)たぬきのおどかし
(7)たぬきのはらづゝみ
「れ」
(1)れんじの月が一目小僧
(2)れんき鳥とけす
(3)れん木のばけもの
(4)れんじおわたるゆうれい
(5)れん木にはねのはえたの
(6)れんじをわたるゆうれい
(7)れんきにはねがはへ
「そ」
(1)そつと手を出す袖引手
(2)欠
(3)そらをとぶ人玉
(4)そらをとぶひかり物
(5)そこぬけ●●やく
(6)そらをとぶひかりもの
(7)そうまふるごしよくわい
「つ」
(1)つみのおも荷を火の車
(2)つちうらの舩ゆうれい
(3)つぢどうまへのたび人のしうねん
(4)つちぐものせいれい
(5)つちぐもおばけ
(6)つちぐものせいれい
(7)つりぎつね
「ね」
(1)ねづみは覘(ねら)はずねじけ猫
(2)ねこまた橋のおばけ
(3)ねどこへ出るかみひきねん
(4)ねどころへ出るかみひき
(5)ねやのおばけ
(6)ねどころへ出るかみひき
(7)ねこまたおどり
「な」
(1)なめたやゝゝゝゝ垢なめ小僧
(2)なすのが原のくろ佛
(3)なすのが原せつしやう石のくわい
(4)なまくさい風にばけもの
(5)なまづのをばけ
(6)なまぐさい風(かぜ)にばけもの
(7)なすのがはらのくろぼとけ
「ら」
(1)らしやうもん手形をとつた鬼の関
(2)らんとうばへ出るばけ物
(3)らいくわうつちぐものくわい
(4)らんまからはいるばけもの
(5)らんまからでるほたるび
(6)らんまからはいるばけもの
(7)らせうもんのおに
「む」
(1)むつの貉(むじな)がむんにやむにや
(2)むかしゝゝゝのおもいつゞら
(3)むかしゝゝゝおもひつゞらのばけもの
(4)むまのばけたの
(5)むらのばけぢぞう
(6)むまのばけたの
(7)むささびひとおとる
 「う」
(1)うし鬼うなれば海うごく
(2)うすひとうげのしゆもく娘
(3)うすい峠のしゆもくむすめ
(4)うみほうすくろくたち
(5)うぶめ
(6)うみぼうずくろくたち
(7)うとふどり
「ゐ」
(1)ゐておとしたを猪(い)の早太(はやた)
(2)欠
(3)ゐなかむらから出る狐火
(4)ゐなむらのそでひき
(5)ゐのなかのうわばみおばけ
(6)ゐなむらのそでひき
(7)ゐのくまにうどう
「の」                                                                 
(1)のでらを闖(のぞ)くいつぺつ坊
(2)のろいのわら人形
(3)のなかのばけ地ぞう
(4)の中(なか)のばけ杉(すぎ)
(5)のなかの一ツ家
(6)のなかのばけ杉(すぎ)
(7)のろひのわらにんぎよう
「お」
(1)おにもおよばぬをどろしく
(2)おくの京の子とり女
(3)おきに見へる舟ゆうれい
(4)おもひつゝらのばけもの
(5)おいはのぼうこん
(6)おもいつゞらのばけもの
(7)おさかべぎつね
「く」
(1)くすりをくだせいゝゝゝゝ
(2)くらやみ坂のつぺら坊
(3)楠のぼうこん
(4)くらやみのつそり
(5)くまののうみぼうず
(6)くらやみのツそり
(7)くらやみざうののつぺらほう
「や」
(1)欠
(2)やなぎの下のうぶ女
(3)やなぎの下のうぶめ
(4)やせツこけたばけもの
(5)やねの上のゆうれい
(6)やせツこけたばけもの
(7)やなぎのしたのうぶめ
「ま」
(1)欠
(2)まつ山むらのくわい
(3)まつやまむらのくわい
(4)まよツて出るゆうれい
(5)まむしおばけ
(6)まよつてでるゆうれい
(7)まかいげどう
「け」
(1)けぶだしに囅々(てんてん)笑ふせうけぶり
(2)げぢゝゝのばけもの
(3)げたのばけもの
(4)けひきべツたり
(5)けんぺぼり
(6)けひきべツたり
(7)げんべいぼりのかつぱ
「ふ」
(1)ふな幽霊は雪吹なだ
(2)ふか川の袖引手
(3)ふるでらのばけほんぞん
(4)ふなゆうれいひしやくゝれ
(5)ふらり火のくわいだん
(6)ふなゆうれいひしやくくれ
(7)ふなゆうれい
「こ」
(1)こりや九ツこはれ皿
(2)こんにやくばしのぶるゝゝ女
(3)こはだ小平治之しうねん
(4)こどものすきなばけもの
(5)こなきこ●ぢ
(6)こどものすきなばけもの
(7)こんにやくばしのぶるゞゝおんな
「え」
(1)えものがあるなら置(おい)てゆけ
(2)えだがさきの五ツ目小僧
(3)えんの下から出るたたみあげのくわい
(4)えんの下にすむひらくひ
(5)えん朝のくわいだん
(6)えんの下に住むひらくび
(7)えんのしたのくわい
「て」
(1)てこまん天狗が手を鳴す
(2)てん神下のけせうやしき
(3)てん神下のけせうやしき
(4)てうちん小ぞう
(5)てうちんこぞう
(6)てうちん小ぞう
(7)てんじやうらのくわい
「あ」
(1)欠
(2)あさ草一ツ家のしうねん
(3)あをさぎのばけもの
(4)あぶらなめ小ぞう
(5)
(6)あぶらなめこぞう
(7)あさかぬまのこへいじ
「さ」
(1)欠
(2)さるはしのさるつら小僧
(3)さよの中山よなき石のくわい
(4)さよの中山(なかやま)夜(よ)なき石(いし)
(5)さんばのおばけ
(6)さよの中山(なかやま)夜(よ)なき石(石)
(7)さよのなかやまよなきいし
「き」
(1)きつね火消(きへ)てきみわろし
(2)きたざはのたゝみあげのくわい
(3)きよもり福原のくわい
(4)きつねのばかしおんな
(5)きりあ●う
(6)狐の化かし女(をんな)
(7)きぬかわのかさね
「ゆ」
(1)ゆきのゆふべの雪女郎
(2)欠
(3)ゆきふりに出るゆき女郎
(4)ゆき女らしろ女
(5)ゆきをんな
(6)ゆき女郎(ぢようろ)しろをんな
(7)ゆきじようろう
「め」
(1)めぬりくちぬり壁座頭
(2)めぐまむらのばけごぜ
(3)めぐまむらのばけごぜ
(4)めぐま村(むら)のばけさとお
(5)めくらいちねん
(6)ぐま村のばけざとう
(7)くらのかべぞしやう
「み」
(1)みこしに見られて身がチゞみ
(2)みこしがたけの見こし入道
(3)みこしがたけみこし入道
(4)みつ目入道(にふたう)大あたま
(5)みこし入道
(6)みつ目(め)入道(にふだう)大あたま
(7)みこしにうどう
「し」
(1)欠
(2)しつとのおんねん
(3)した出し子僧のとうふなめ
(4)しただしとうふ子僧
(5)しぼりのゆかた
(6)した出(だ)しとうふ小ぞう
(7)しらぬひ
「ゑ」
(1)ゑなの祟りか産女(うぶめ)鳥(とり)
(2)ゑツ中立山地ごくごくらく
(3)ゑのくまのくび
(4)ゑのくま大入道
(5)ゑのくま
(6)ゑのくま大にふだう
(7)ゑちごのうみぼうず
「ひ」
(1)ひとだまひうゝゝひうどろゝ
(2)ひだの山おく大ひき
(3)ひだか川しつとのねん
(4)ひとつ目小僧(こぞう)一寸ぼし
(5)ひとつめこぞう
(6)ひとつ目(め)小ぞう一寸(いつすん)ぼし
(7)ひとつめこぞう
「も」
(1)もじ書き(かき)ものいふ茂林寺茶釜
(2)欠
(3)もりん寺のぶんぶく茶がま
(4)もゝんかあどろゝゝゝゝ
(5)もゝんがあ
(6)もゝんがあどろゝゝゝゝ
(7)もりんじのぶんぶくちやがま
「せ」
(1)せつしやうのうらみの鋏網を剪(きる)
(2)せん中のくわい海坊主
(3)せん中のくわい海坊主
(4)せん中(ちう)のほうす
(5)せとからでるおばけ
(6)せん中(ちう)のぼうず
(7)せんしうのせみむすめ
「す」
(1)すこやすりこぎ雀いふ
(2)するがの北はま鬼火のくわい
(3)するがの北はま鬼火のくわい
(4)すりこきにはねかはへ
(5)すごいなまくび
(6)すりこぎにはねがはへ
(7)すゞがやまのほてう
「京」
(1)京に凶事ある希有(けう)車(くるま)
(2)京の町へ出るかたわ車
(3)京の町へ出るかたわ車
(4)京のまちのかたは車
(5)京ならくらまやま
(6)京のまちのかたわぐるま
(7)京のまちゑでるかたわぐる
明治前期化け物かるた③
明治前期化け物かるた②
明治前期化け物かるた①
明治中期おばけかるた③
明治中期おばけかるた②
明治中期おばけかるた①

こうして見てみると同じ「妖怪かるた」に分類されるかるたの中で内容に大きな違いがあることが分かる。例えば、表紙にあたる「い」のカードでも、「いぬ神いのるくびのいけにえ(犬神祈る首の生贄)」(東博蔵)、「いどから出るさらやしき(井戸から出る皿屋敷)」(多田本)、「いとから出るさらやしき(井戸から出る皿屋敷)」(江橋蔵1)、「いぬかみやまのいぬ(犬神山の犬)」(江橋蔵2)である。「ろ」は「ろくろくび」を使うところは共通しているが、内容は異なっていて、「ろくろくびのむりのび(ろくろ首の無理伸び)」(東博蔵)、「ろくろくびのあぶらなめ(ろくろ首の油舐め)」(多田本)、「ろくろくび(ろくろ首)」(歴博蔵)、「ろくろくびのびやうぶごし(ろくろ首の屏風越し)」(江橋蔵1)、「ろくろくび(ろくろ首)」(江橋蔵2)である。中に「よ」の「四谷のお岩」、「や」の「柳の下の産女」、「さ」の「さよの中山夜泣き石」。「も」の「茂林寺の文福茶釜」、「京」の「京の町へ出る片輪車」のように七点のかるたのすべて、あるいはほとんどで共通するものもあるが、逆に、「と」のように、「とうをまげたる地震怪(塔を曲げたる地震怪)」(東博蔵)、「とさの山ごへのどゞ目鬼(土佐の山越えのどど目鬼)」(紙博蔵)、「とさの海のようぐわい(土佐の海の妖怪)」(多田本)、「とうふこぞう(豆腐小僧)」(歴博蔵)、「とこをもつてまくらがへし(床をもって枕返し)」(江橋蔵1)、「とうふなめこそふ(豆腐舐め小僧)」(江橋蔵2)のようにばらばらのものもある。歴博蔵のものは特に独自色が強く、「にんめんそう(人面草)」「へいけがに(平家蟹)」「ちのいけぢごく(血の池地獄)」「ぬれぼとけ(濡れ仏)」「をんなのいちねん(女の一念)」「よたかのばけたの(夜鷹の化けたの)」など、他に類似のものがないが、このかるたの場合でも、「ほ」は「ほん所をのをいてけぼり」と他のかるたと共通していて、辛うじて江戸で制作されたことが分かる。

この類似性と独自性の競い合いという点は、この時期に「犬棒かるた」に収れんした「いろは譬え合せかるた」とは大きく異なるし、いろはかるた類における多様な需要、多彩な市場の様子や、制作する側の各々が独自の意図を持っていたなど、当時のかるた文化の実際の姿を考えるヒントにもなる。

もう一つ特徴的なのは、図像の変化である。江戸時代の「化け物かるた」は、化け物が出現する状景を描いたものが多く、どういう状況だと出てくるかを子どもに説明している感が強い。化け物たちも相当に怖く描かれている。一方、明治年間(1868~1912)になると、化け物の全身ないし顔面を大きく描写しており、その多くは、たしかに子どもを脅す顔つきではあるが、その表情はどこかやさしく、目や口が笑っているものが少なくない。そこには、怖さもあるが親しみもある。昔から、化け物は子どもたちとは仲良しでもあった。化け物は人を驚ろかすが一緒に遊ぶ仲間でもある。危害を加えたり、まして人を殺したりする化け物は少ない。この、後者の側面を思い切り拡大したのが、例えば昭和後期の漫画家、水木しげるの「げげげの鬼太郎」の化け物たちである。怖さと親しさの両面性のうち、怖さに力点があるのが江戸時代の化け物かるたであり、親しみに力点が移ってきたのが明治以降の化け物であると言ったら、言い過ぎであろうか。

明治前期(1868~87)の化け物かるたは漢字の使用が少ないが、そのわずかな漢字にも振り仮名を付けて平仮名しか読めない幼児でも遊べるようにしてある。明治中期(1887~1902)のものになると最初から字札は平仮名だけである。親しげな化け物像には実際に遊びに使う子どもの低年齢化にも対応した販売戦略の意味もあるのであろうけど、絵札の図像を一つ一つ見て行くと、この化け物とはすぐに友達になれそうというほとんど忘れかけていた子どもの頃の気分が湧いてくる。制作者の大人の優しさがほの見えてくるが、ここに化け物かるたが長く子どもたちに愛好されている理由があるのかもしれない。


[1] 多田克己『江戸妖怪かるた』国書刊行会、平成十年。

[2] http://shinku.nichibun.ac.jp/esoshi/search_result.php?disp=JP