カブ遊技図
カブ遊技図(「花下遊楽図屏風」萬野美術館蔵)

『雍州府志』では「かう」「ひいき」という遊技法について、名前だけが出てきて、具体的な内容については分らない。そして黒川道祐はこれらの遊技法を「ひっきょう、博奕の戯である」と切り捨てたが、もう少し丁寧に見ておきたい。

日本のカルタ遊技では、マッチング・ゲーム、特にフィッシング・ゲームが特徴的に発達したが、他の国のように、アディング・ゲームの遊技法が伝来しなかったわけではない。この遊技法は、手元に配られた札の数字の合計によって勝ち負けを決するタイプの遊技法であり、「かう」「ひいき」はまさにそれである。但し、「かう」は極めてポピュラーな遊技法であったが「ひいき」はほとんど知られていない。

きんご仕方
きんご仕方(『博奕仕方風聞書』)

江戸時代前期(1652~1704)のアディング・ゲームに関する文献史料や、現代にまで伝えられてきたその遊技法及びそこで用いるカルタ札からは、次のように判断される。

まず、アディング・ゲームが広く普及するには、数字の扱いに関する社会意識の変化が必要である。例えば「カブ」の遊技では、手元に配られた札の数字の合計を素早く計算する必要がある。この遊技では「九」が勝数であり、それより少ないがそれに近い数が次善の数になる。であるから、たとえば「六」と「七」の札が配られたら、素早く計算して、足して十三だから十の位は切り捨てて三であり、これでは勝てないので三枚目を請求する。それが「六」であれば合計で十九、カブつまり九の勝数になる。「五」であれば十八で次善のオイチョ、八であるが、三枚目が「七」であれば合計で二十つまりゼロになって必敗である。また、配られた二枚の札が「二」と「七」であれば、その段階ですでに合計は勝数の九であるから三枚目を断る。こうした計算と決断を瞬時に行うには、それなりに足し算への理解がなければできない。足し算に巧みな人の増加という社会的な変化が前提であるというと、現代の学校教育を体験している者には当たり前すぎて逆に理解しにくいが、江戸時代前期(1652~1704)の平安な社会になり、初等教育も整ってきた時代背景がなければ、かぶカルタ系の遊技法は高級過ぎて社会一般には普及しなかったであろう。そうした意味で、アディング・ゲームもまた平和な時代の子であった。

江戸時代前期(1652~1704)の史料を見ると、アディング・ゲームとしては「きんご」と「かぶ」が際立つ。「きんご」は勝数が十五のアディング・ゲームである。これに用いる札は四十八枚の天正カルタであったと思われる。この時期より百年以上後の江戸時代後期、寛政年間(1789~1801)の江戸町奉行所同心の記録『博奕仕方風聞書』[1]には「きんご仕方」の札として「かるた四拾枚、馬きりの札八枚は入不申候、此札残らず青く画、めくり札とはべつに御座候」とある。この説明では、一組四十八枚のすべて青色のカルタがあって、「きんご」で遊技する際には「キリ」「ウマ」の八枚を除外して使うという意味のように読めるが、「キリ」「ウマ」を最初から除外した四十枚一組の専用札があってそれを使うという風にも読める。前者であればきんごカルタの札を使う遊技であり、後者であればかぶカルタの札を使う遊技法である。この江戸の「きんご」は勝数が十五の遊技である。『博奕仕方風聞書』には、その遊技法についてこのように書いてある。

「一 手合何人にても壱人江壱枚つゝ蒔渡置、残札裏之方を見せ其席の真中を場と唱申候、場に差置順々に手之札と場之札と壱枚づゝ引合、數拾五に相成候得ば勝に相成候事 一 手に四之札持居候而場に伏有之札之内にて七之札六之札と弐枚取候得ば十五より數多相成候、此分はばれと申、其ものは休其次にても右様に候得ば休、残両人にて勝負いたし候事 役札次之通 壱之札、四之札、此札は 四ひん と唱申候 九之札、壱之札 此札は 九ひん と唱申候 右之札を取候得ば十五の數に不構勝と定最初銘々より金銭何程と定め掛置候を引取候事」。

『博奕仕方風聞書』には、これ以外に「かぶカルタ」に関する記述は一切ない。これにより、江戸では九を勝数とするかぶカルタではなく十五を勝数とするきんごカルタの遊技の方が好まれていたことが分かる。その際には、「残らず青く画」いた専用札が使われていた。しかし、江戸時代前期(1652~1704)の京都、『雍州府志』では、黒川道祐は天正カルタを使用する読みや合せを説明した次に、特に別種のカルタ札を使うという断りを入れないままに「かう」「ひいき」「うんすんカルタ」の説明をしているので、この時期、貞享年間(1684~88)にはまだ青色の専用札は開発されておらず、読みや合せと同じ天正カルタを使って行われていたものと推察される。


[1] 山田清作『博奕仕方風聞書』『未刊随筆百種第二』、米山堂、昭和二年、四一三頁。

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