メニュー

(六)読みカルタ遊技での紋標「ハウ」の札の優遇

以上、『雨中徒然草』の解析を経て、江戸時代中期の読みカルタの実相を見ることができた。これまでの説明から、一定のイメージを持つことができたと思う。その際に、とても奇妙な一つの事実があることにも気付いたことと思う。すでに少し触れたように、紋標「ハウ」の札がとても優遇されていることである。遊技の勝敗に直結する役の形成においては、七枚金入の札が軸になっているが、そのうち六枚は紋標「ハウ」の「あざ」「青二」「青三」「釈迦十」「青馬」「青きり」である。「青四」から「青九」までには金銀彩はないが、役の構成要素としてはよく使われている。

これがいかに奇妙であるのかは、トランプの紋標、スーツマークを考えて見れば分かる。トランプでは、ダイヤ、ハート、スペード、クラブの四紋標の間に札としての価値の差はない。遊技法の中で特定の札に高い価値を付けることはよくある。絵札を高く評価し、数札を低く評価することはよくあるし、ゲームの中で切り札に定めた紋標の得点を高くすることはある。だが、例えばスペードの紋標の札が常に切り札であって高価であるなどという決まりはごく一部の遊技法にしかない。それが「読み」では「ハウ」、「青」は常に貴種なのである。そして、天正カルタに「読み」仕様の金銀彩が施されてくる。

これを私は、紋標間の身分差と考えている。この特徴は、海外から伝来したカルタにはない。これは日本に入ってからの工夫であり、鎖国後のカルタ遊技の日本化の大きな変化だと考えている。その出現の経緯は分らない。元々海外から伝来した「読み」の遊技法にはこういう紋標間での身分差はなかったのに、江戸時代前期(1652~1704)に変化したのか、それとも、江戸時代前期(1652~1704)に、最初からこういう遊技法で発祥したのかは、いずれであるのかは分からない。ただ確かなのは、元禄時代(1688~1704)の一大カルタ遊技ブームを経た後の江戸時代中期 (1704~89)には、がんじがらめに思えるほどに多様な役が、紋標「ハウ」によって演じられていることである。このことはいったい何を意味するのか。ここではこの不思議な変化を指摘しておき、その解明は後に譲りたい。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です