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(一)伝狩野芳崖筆の花合せかるた

狩野芳崖『花鳥合せ』
狩野芳崖『花鳥合せ』
(『日本の名画1狩野芳崖』)

「寶永二年拝領花合せかるた(仮称)」の発見によって改めて注目されるのが、幕末期 (1854~67)の 狩野芳崖筆と伝えられる花合せかるた である。これの存在は昭和五十一年(1976)刊の『日本の名画1狩野芳崖』(中央公論社)で以前から知られていたが、所蔵者が不明でそこに掲載されている図像以外には、その詳細を検討することができない。ここでも、この点への不満足感をともなって検討を進める。

このかるたは、同巻の編集者、細野正信の解説によると、万延元年(1860)頃のもので、「厚紙彩色、二一二枚五三組、各八・八×六・〇㎝」である。次の解説が付く。「いわゆる花合せは一九世紀の初めに創案された。和歌を書いたものや名所を描いたものもあったが、次第に意匠は洗練され、カルタの中心となった。普通、墨線を版刷りにし、色を型紙で刷ったが、これは手描きの贅沢なもので、おそらく上流階級で純遊戯用に用いられたものであろう。それにしても琳派風の見事なデザインで、意匠家としての芳崖を思わずにはいられない。全部で二一二枚あるうちの一六枚である。それぞれに点数が書き込んである」。同書に収められたかるた札は、「松に旭日 五百点」(但し、通常の花札の若松ではなく、老松である。鶴はいない)、「桜に満月 三百点」(当然、夜桜である)、「桜に幕 百点」、「くさ木の上空に三日月とホトトギス 百点」(藤ではない)、「杜若に八つ橋 五十点」「杜若 二十点」(カス札に見えるが背後の一部が緑色に区切られており、これが短冊札である印であるのか不明)、「牡丹に獅子 三百点」、「紅葉に鹿 百点」、「紅葉に薬鑵 五十点」(薬鑵は紅葉狩のお供、背景の一部が緑色に区切られている)であり、他に「菖蒲に兜 三百点」、「菖蒲 百点」(カス札に見えるが背後の一部が青色に区切られており、短冊札か不明)、「竹に雀 二百点」、「稲田に燕 百点」、「芙蓉に猫 百点」、「鶏頭草 三十点」「芹 二十点」である。 

以上の内容であるので、このかるたは花合せかるた史を解明する重要な史料と考えられる。ところが、これは、狩野芳崖筆であることが多くの専門研究者によって否定され、芳崖の研究者や美術館関係者は関心を失い、その後の芳崖の展覧会や作品集などの出版物には全く登場せず、芳崖の作品目録からも抜け落ちている。こうした事情が影響したのか、その後は所在も分からず、行方不明の状態にある。芳崖の研究者からは取るに足らない町絵師の作品と斥けられたことになるが、私のような花札史の研究者にとっては、たとえ芳崖の作品でなくとも、 幕末期 (1854~67)の花合せかるた の有力な史料であり、それが世に隠れてしまったのは甚だ残念な状態である。いつの日か、もう一度世に出て、二百十二枚のすべてを検討する機会が生まれることが強く望まれる。

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