メニュー

(三)『博奕仕方風聞書』の「めくりカルタ」遊技法

「めくり博奕仕方」(『博奕仕方風聞書』、江戸時代後期)
「めくり博奕仕方」
(『博奕仕方風聞書』、
江戸時代後期)

めくりカルタの遊技法に関して従来の研究でもっとも基本的に依拠されてきたのが寛政年間(1789~1801)の江戸北町奉行所の記録『博奕仕方風聞書』である。同書は、寛政の改革で博奕を厳しく取り締まる中、各種の博奕について実状を調査した報告書であり、当時の取締り当局が博奕をどのように把握していたのかを実証する史料として価値は極めて大きい。同書の内容は、基本的に聞き取り調査に基づくものであり、リアルな目撃証言を基にしたということになるが、取材に当たった担当の当局者の取材力や文筆力に限界がある場合もあり、必ずしもその博奕行為が十分に説明されていない事例もある。したがって、同書を読む際には、その内容が事実を書いていると無条件に信じこむのではなく、史料批判を軽視することはできない。また、たまたま取材した相手方の語る遊技法が必ずしも普遍的に通用している遊技法ではないという可能性の残ることも無視することはできない。ただし、これは、直接に賭場に踏み込んでいない取締り当局者による博奕カルタの記述に共通する問題点であり、『博奕仕方風聞書』だけが特に劣るというものではない。そして、ここで問題にするめくりカルタに関する記述は、粗雑な読みカルタなどの記述に比べれば詳細、正確であり、担当者の能力の高さが感じられ、基本的に信頼性が強いものと判断される。

同書は、①カルタ札四十八枚の名称と各個の札に認められる点数、②遊技への参加者の数、札の配分、降りる者と勝負に出る者の決定、③遊技の展開と勝負のつけ方、④役物とされる札の組み合わせとそれができた場合の取り扱い、⑤場銭及び賭銭の精算の方法、などについて記載している。

幽霊札と鬼札(上段・幽霊札、下段・鬼札)
幽霊札と鬼札(上段・幽霊札、下段・鬼札)

まず、①札の構成と点数についてであるが、ここで不思議なのは、めくりカルタの遊技では重要な役割を果たす「鬼札」一枚と「幽霊札」一枚について全く言及されていないことである。両者は江戸時代中期(1704~89)にはすでに出現して盛んに使われており、また、同書提出後の時期になる文化、文政年間(1804~30)にも存在していた記録がある。その後、明治年間(1868~1912)以降に残ったいわゆる「地方札」の現物にも添付されている。しかし、他方で、寛政年間(1789~1801)にはこれが除外されていたという記録もある。したがって、「鬼札」と「幽霊札」の不在は、この時期には、①短期間であるが一般に使用が差し控えられていた、②取材した相手方のグループがたまたま「鬼札」を使わない流儀の遊技法であった、③取材担当者が聞き漏らした、あるいは執筆者が書き漏らした、という三つの理解が可能であり、どれであるのかは軽々しくは決められない。

②遊技への参加者の数、札の配分、降りる者と勝負に出る者の決定であるが、同書は、二人より五人が参加できるとしている。五人の場合は一人が強制的に休みで、四人に七枚ずつの札を裏面を上にして配分し、場には六枚を表面を晒して展開させる。同書はこの先に、手札の具合が良くないので降りる者が一人出て三人で勝負になることもあり、二人になることもあり、三人が降りれば蒔き直しになると記述している。これによると四人が全員参加する場合があるように読めるが、それでは場に残す山札が不足してゲームとして成立しなくなるのであり、ここは、最低一人は手札を見て降りる者を出すということであり、記述がおかしいのだと思う。めくりカルタは三人で勝負する遊技であり、二人で行うのは極めて異例の事であり、四人で勝負することはない。

③遊技の展開と勝負の付け方であるが、三者を「親」「胴二」「大引」と呼ぶ。勝者が次の回の「親」になる。遊技は、手札と場札を合わせて釣り取ること、山札を捲って場札と合えばこれも釣り取ることに尽きる。

④役物とされる札の組み合わせとそれができた場合の取り扱いであるが、上記の六種類の札の構成になれば役物となる。役物にはそれ固有の点数があり、役物を作った者にはそれが与えられる。他の二者はそれを負担することになる。これは札の点数で計算される勝ち負けに関係なく、負けた場合でも得られる。したがって、札の点数で勝ち、さらに役物ができて大勝ちになることもあれば、札の点数では勝ったのに役物の点数を差し引かれて負けになることもあるし、逆に点数では負けたのに役物で逆転することもあるし、点数で負けて役物の支払いも重なって大負けになることもある。

⑤場銭及び賭銭の精算の方法であるが、場銭は勝負に参加する三人が一文ずつ提出し、諸費用に充てる。賭銭の計算は一点を何文にするのか次第で庶民の気楽な賭博の遊技にもなるし、高額の博奕にもなる。同書は取締り当局者の報告であるので、碁石の活用も含めてこの点は詳細に記されている。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です