四 源氏物語かるたと百人一首かるた (六)庶民教育の教材となった「百人一首かるた」 かくして、江戸時代後期(1789~1854)はかるたの全盛期になった。本章ではそのことを細かく見てきた。そこには、これまであまり注目されてこなかったが、言葉遊び、歌舞音曲、芝居見物、旅行、性娯楽など、大人の遊興が色濃く反映していて、かるたは大人の遊技の道具であった。そしてそこにはもう一つ庶民教育、特に女子教育という要素... 館長
四 源氏物語かるたと百人一首かるた (五)かるたは百人一首の優位、文芸作品は源氏物語の優位 こうして、口承文芸、もじりの精神を組み込むことによって、百人一首カルチャは拡大し、かるたの世界では源氏物語のかるたよりもはるかに広く遊ばれるようになった。文字を知らなくても遊べる点や、賭博の臭いの強い遊技法の開発など、文芸としては外道な部分でも創意工夫の差が大きかったのであろう。 だが、文芸としては源氏物語のほうがはる... 館長
四 源氏物語かるたと百人一首かるた (四)異種百人一首、もじり百人一首の成立 こうした百人一首カルチャの成功を見て、さまざまな類似品が考え出された。何かしら、テーマで百首の和歌を集めた異種百人一首がそうであり、さまざまなものが開発された中には、上流階級のお姫様の好みであろうか、百人の女性歌人の和歌に、各々の歌人像を添えた美麗な「女房百人一首」本も登場している。こうしたものは源氏物語の文化では発生... 館長
四 源氏物語かるたと百人一首かるた (三)百人一首かるたと源氏物語かるた かるたとしての広がりという点からすると、百人一首かるたの勝ちであった。江戸時代の全期を通じて、さまざまな歌合せかるたが存在した。伊勢物語、古今集、新古今集、自讃歌集、三十六歌仙歌集などが作品として盛んに用いられた。これらは、文字かるたが多かったが、中には、源氏物語と同じように、和歌の作品の場面を描く挿絵の入ったものもあ... 館長
四 源氏物語かるたと百人一首かるた (二)源氏物語かるたの起源 貝型源氏歌かるた(制作者不明、 三池カルタ・歴史資料館蔵、江戸時代前期) 初期の歌合せかるたとしては、「百人一首かるた」よりも「源氏物語歌合せかるた」(以下「源氏物語かるた」)のほうが優勢であったように思われる。残された寛文、延宝期(1661~1681)以降の「源氏物語かるた」を見ると、紙片を雄雌の貝殻の形に切り取り、... 館長
四 源氏物語かるたと百人一首かるた (一)江戸時代の女性文化を飾った源氏物語、伊勢物語、小倉百人一首 江戸時代の女性文化の中心に源氏物語の受容があった。それは広く「源氏文化」ないし「源氏物語カルチャ」と呼ばれている。江戸時代の日本においては、源氏物語は、主として公家や大名の世界で長大な作品のままに文芸作品として読み込まれただけでなく、同時に、高い識字率を背景にして成立した木版印刷の梗概書(こうがいしょ)によってあらすじ... 館長