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一 欧米人のコレクションに納まった日本のカルタ

マーガレット・サージェント・フィッシャー

この時期に何点かのカルタが珍奇な土産物として買い取られて海を渡った。欧米人の強いコレクションの欲求がこれをもたらしたのであるが、持ち帰った人間の記録は残っていない。

アメリカのイエール大学の図書館には、1945年に寄贈されたフィッシャー・コレクション、1967年に寄贈されたカリー・コレクションと、かつてUSプレイング・カード社の資料館にあったコレクションが収められている。

1945年にマーガレット・サージェント・フィッシャー(Margaret Sargent Fisher)から寄贈されたフィッシャー・コレクション[1]には東アジアのカルタが多くあり、特に1840年のアヘン戦争後に中国各地に開かれた欧米列強の租界で獲得された中国系のカルタが豊富に含まれている。その中には、当時のカルタの製造法からして当然であるが、カードの表面に塗られた菜種油の類が経年劣化して硬化してしまい、一組のカルタが小さなレンガ状に固まっていて一枚一枚にはがして調査することに困難があるものが多い。私は同図書館での調査時には、それを力任せに開くことはしないで外観から観察し、そのサイズ、図柄や文字が現代のものとそっくり同じであり、中国においてもカルタのデザインは根強く継承されていることを確認したので、現状を破壊してまで分解して調査することはしなかった。

ウイリアム・ケラー『イエール大学図書館
カリー・カード・コレクション目録

このフィッシャー・コレクションには江戸時代の日本のカルタも含まれているが、それよりも圧倒的に豊富なのが、メルバート・B・カリー・ジュニア(Melbert B. Cary, Jr.)が半世紀かけて蒐集したカリー・カード・コレクション[2]であり、そこには日本のカルタが数多く所蔵されている。多いのは明治年間(1868~1912)以降のめくりカルタやかぶカルタの類であり、花札も何組かある。花札は江戸時代後期(1789~1854)に始まった「武蔵野」と呼ばれた図柄のものから、幕末期(1854~68)の開国後に対外貿易で活気あふれた新開地の横浜で開発され、すぐに全国に広まった「横浜花」、後の「八八花」の図柄のものへの転換期であった。この時期に国外に持ち出されて結局これらのコレクションに収まったものにも新旧の双方を見出すことができる。このコレクションには詳細な収蔵品目録がある。

なお、現在のイエール大学図書館には、以前はオハイオ州シンシナティ市のU.S.プレイング・カード社の付属博物館にあった同社のカード・コレクションの一部が移管されている。これは同社がその事業のために集めたもので、トランプ類が豊富である。日本のカルタでも、明治三十五年(1902)に山内任天堂が制作した国産第一号のトランプがあるが、それとともに花札、めくりカルタがある。このコレクションを駆使したのがこの論文でも後に扱うハーグレイブで、その著作『プレイング・カードの歴史』では随所にそれが活用されており、また各国別に整理して記述した各章の末尾にこのコレクションの説明がある。この博物館は二十一世紀に入ると事前の予告なしに閉鎖され、コレクションは部分的に売却された。その後、同社の経営の変化に伴い、同博物館の再開が約束されたが、なお詳細は明らかでない。

また、このほかに、数量的にはアメリカのものに及ばないが、ドイツ、ラインフェルデン市にあるドイツ・カード博物館[3]や、イギリス、ロンドン市にある大英博物館やギルド・ホール図書館、それにヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などにも日本のカルタがある。ドイツにおいては、以前から世界最大級のカード・コレクションを誇る博物館があったが、第二次大戦後にソ連の占領軍によって他の美術館の美術品などとともに強奪され、その後の存否、所在はソ連解体後になっても不明である。現在の博物館の収蔵品は戦後に蒐集されたものである。

日本で本格的にカルタの歴史の研究が始まったのは第二次大戦後であり、欧米における日本のカルタの蒐集、研究に関する調査、研究はさらに数十年遅れた。逆に、欧米での研究も日本人の協力なしには困難が大きかった。資料の蒐集では優れたものがあったが、それの整理、分析は遅れており、多くの場合、ほとんど未整理の状態で残されている。とはいえ、すでに日本では消滅している資料が手つかずで残されているので、こうした欧米各国に残る研究資料は今後も活用することが期待できてとてもありがたいことである。


[1] Margaret Sargent Fisher, “The Devil’s Picture Books” The Yale University Library Gazette. Vol.20 Num.3, 1946, p.41.

[2] William Keller, “ A Catalogue of The Cary Collection of Playing Cards in the Yale University Library.” Yale University Library, 1981.

[3] Gernot Prunner, “Ostasiatische Spielkarten” Deutsches Spielkarten Museum, 1969.