日本語辞典、漢和辞典における「麻雀(マージャン)」という語の掲載事情を何点かの書籍から抜粋してみよう。

大正期、昭和前期

漢和辞典(書名不詳、文求堂書店)大正三年(1914)(昭和元年六版)
ma chiao erh 麻雀児 賭博具ノ一種

詳解漢和大字典(冨山房)大正五年(1916)(昭和二十七年修訂増補版)
麻雀 マージャン 将棋に類する勝負遊戯(民国) 

井上支那語辞典(文求堂書店)昭和三年(1928)(昭和十三年十二版) 
麻雀 (1)雀、(2)麻雀牌ノ略
麻雀牌 賭博用ノ骨牌ノ名

漢和辞典(書名不詳、文求堂)昭和六年(1931)
まあちゃん 麻雀(名)麻雀、麻雀牌[麻雀をする]打麻雀

新修漢和大辞典(博友社)昭和七年(1932)(昭和二十八年増補版) 
麻雀 マージャン 支那の牌遊びで、四人一組、百三十六個の牌で勝負するもの。馬牌。

尚文堂支那語辞典(尚文堂)昭和七年(1932)
麻雀児 ma chiao  rh マーヂヤン
麻雀牌 ma chiao pai マーヂヤンノ駒

大言海(冨山房)昭和九年(1934)(昭和三十一年新訂版)
マアジャン(名) 麻雀 〔字ノ支那南方音〕近時、支那ヨリ傳來セル一種ノ室内遊戯。四箇ヅツ一組ヲナス百四十四箇ノ駒ト、二箇ノ簺(サイ・骰子)トヲ用ヰ、原則トシテハ、四人一組トナリテ行フ。駒(牌)ハ象牙ニ竹ノ裏打ヲシタル縦一寸、横八分、厚サ四分許リノ長方形ノモノニテ、附属品ニハ計算札(籌馬)、親標(オヤジルシ・荘子)ナドアリ。マアチャン。マアジョン。(駒即ち牌の數は其後一三六箇。) 

新字鑑(高等教育研究会)昭和十年(1935)(昭和三十三年改訂増補初版)
麻雀 マア チイヤン ma chiang マージャン(麻雀牌の略)=麻将
麻雀牌 マア チイヤン パイ ma chiang pai (支)マージャン
麻将 マアチイヤン ma chiang (支)マージャン=麻雀

最新支那語大辞典(第一書房)昭和十年(1935)
麻雀 ma tsie 賭博ノ一種
麻雀王 ma tsie wung 麻雀賭博ノ名手
麻雀児 ma tsie rh 賭博具
麻雀郎中 ma tsie lang chung 麻雀賭ニ於ケル妙手ノ一
麻雀牌 ma tsie pai 賭戯、麻雀ノ駒

辞苑(岩波書店)昭和十一年(1936)
マーチャン 麻雀(名)支那の室内遊戯の一種。競技人員は四人を原則とし、用具には牌(パイ)と稱する駒を用ひる。牌は骨材に諸種の彫刻を施こし、竹を以て裏打したもの。万子・筒子・索・三元・四喜の五種百三十六箇から成る。この牌を荘家(親)が十四箇、散家(子)が十三箇づつ配り持ち、各自が牌の取捨を行って規定の組合せを早く終った者が、和了(ホーラ)を宣し、各自の得點を計算して一回を終る。我が国に於いては大正の末年頃から流行し始めた。

大辞典(平凡社)昭和十二年(1937)(平成六年復刻版)
マージャン 麻雀 支那の遊戯の一種。普通四人で百三十六箇の牌(パイ*三元牌(サンユワンパイ)、風子(フォンツ)、索子(ソーツ)、筒子(トンツ)、萬子(ワヌツ))と二箇ノ骰子(サイツ)を點數を争ふもの。三組の刻子(コーツ)、槓子(ジュンツ)または順子(ジュンツ)と麻雀頭(マージャントー)を作ったものを上がりとし、席の定め方、駒の組合わせ方などに複雑なる規則ありて勝敗を定む。この語は馬吊(マーチョウ)の語呂から來たもので、牌を掻き廻す音恰も竹林中群雀の囁き交すに似たる故なりといはる。モーチャン。マージョン。

改訂新字鑑(弘道館)昭和十四年(1939)(昭和二十四年三○五版)
麻雀 マアチイヤオ ma chiao(支)スズメ。 マアチイヤン ma hiang マージャン(麻雀牌の略)
麻雀牌 マアチイアンパイ ma chiang pai (支)マージャン
麻将 マアチアン ma chiang マージャン=麻将

新字鑑学生版(弘道館)昭和十九年(1944)(昭和二十二年三版) 
麻雀 マアチイヤン ma chiang マージャン。(麻雀牌の略)=麻将

昭和後期、平成期

新漢和字典(冨山房)昭和二十一年(1946)
麻雀 マージャン 将棋に類する勝負遊戯。
 
小言林(全国書房)昭和二十九年(1954)
マージャン 麻雀(名)中国の室内遊戯の一種。競技人員は四人を原則とし、用具には牌(パイ)と称する駒を用いる。牌は骨材に諸種の彫刻を施し、竹を以て裏打ちしたもの。万子・筒子・索子・三元・四喜の五種百三十六箇から成る。この牌を荘家(親)が十四箇、散家(子)が十三箇ずつ配り持ち、各自が牌の取捨を行って規定の組み合わせを早く終った者が和了(ホーラ)(終る)を宣し、各自の得点を計算して一回を終る。我が国では大正末期から流行。
 
辞海(三省堂)昭和二十七年(1952)
まあじゃん 麻雀(名)中国から渡来した室内遊戯の一、普通四人で、竹の裏をつけた百三十六個の象げ・骨などで作った牌(ぱい)で行う。卓技。
まあじゃんクラブ 麻雀倶楽部(名)客から料金をとって麻雀を行わせる娯楽場。
 
国語博辞典(甲鳥書林)昭和二十七年(1952)
マージャン 麻雀 中国の室内遊戯の一。競技人員は四人。骨材に諸種の彫刻を施し、竹で裏打して百三十六枚の牌で行うもの。
 
大漢和辞典(大修館)昭和三十年(1955)
麻将 ma chiang 麻雀に同じ。
麻雀 ma chiang 賭戯の一。マーヂャン。
麻雀兒 ma chiang erh マーヂャン。
麻雀牌 ma chiang pai 麻雀のこま。
 
広辞苑(岩波書店)昭和三十年(1955)第七版(2018)
室内遊戯の一種。普通四人で行う。用具は牌(パイ)と称し、骨材に諸種の彫刻を施して裏に竹片を接合したもので、万子(ワンズ)、筒子(トンズ)、索子(ソーズ)の一~九各四枚と文字牌である三元(白板・緑発・紅中)・四喜(東・南・西・北)各四枚との合計一三六個。競技は、荘家(親)をきめ、他の人が散家(子)となって、各一三枚の牌を取り持ち、各人が牌の取捨を行って規定の組合せを早く終わった者が和了(ホーラ)を宣する。順次、親がかわって四巡して一荘(イーチャン)が終り、その時の牌の組合せによる得点で勝敗を決める。清代に流行、日本には明治末期に伝わった。
 
日本国語大辞典(小学館)昭和四十七年(1972)(平成十二年二版)
マージャン 麻雀(名)(中国語から)室内遊戯の一つ。四人の競技者が、象牙(ぞうげ)、骨などの材に字や数など諸種の図柄を刻し、竹の裏をつけた一三六個の直方体の牌(パイ)を用い、一定のルールに従ってある組合せを行い、上がりを競い合うもの。中国起源で、わが国には、明治末期にアメリカと中国とから前後して輸入された。日本への伝来については、明治三十八年(一九〇五)、中国四川省に英語教師として招かれた名川彦作が、帰国時に持ち帰った牌で同僚たちを集めて教えたというのが定説になっている。
 
(注)末尾の文章は初版では以下のようなものであった。「語誌(1)中国の明の熹宗時代(一七世紀前半)にできた「馬吊牌」から変化してきたもので、はじめは四種類四十枚の紙牌であった。この紙牌を「馬将マージャン」と呼ぶようになる。のちに骨の「骨牌」になり、牌をかきまぜるときの音が鳥のスズメの鳴き声に似ているので、「麻雀」と呼ぶようになったが、「麻雀」と書いても人々は麻雀と言っていた。‥‥中略‥‥、(2)日本への伝来については、明治三十八年(一九〇五)、中国四川省に英語教師として招かれた名川彦作が、帰国時に持ち帰った牌で同僚たちを集めて教えたというのが定説になっている。」
 
学研漢和大字典(学習研究社)昭和五十五年(1980)
麻雀 室内でやるゲーム。四人一組で百三十六個のpai(ハイ)を用い、その組みあわせによって得点を争う。
 
学研国語大辞典(学習研究社)昭和五十五年(1980)
麻雀 マージャン 中国から伝わった室内遊戯の一つ。一三六個の牌(パイ)を用い、四人一組で勝負を競うもの。各々一三枚の牌を持って競技を始め、各自がルールに従って手持ちの牌の組み合わせをあがりの形に整えてゆき、最初にその形になった人を勝ちとして得点を与える。各種の役がある。▽中国ma-jiang
 
漢字源(学習研究社)昭和六十三年(1988)
麻雀 マージャン 室内でやるゲーム。四人一組で百三十六個の牌(パイ)を用い、その組みあわせによって得点を争う。
 
カラー版日本語大字典(講談社)平成元年(1989)
麻雀 室内ゲームの一種。四人で行い、象牙(ぞうげ)骨などの材に字や諸種の図柄を刻んだ一三六個の牌(パイ)を使う。中国から伝わったとされ、大正時代末ごろから全国に普及した。
 
新漢英字典(研究社)平成二年(1990)
麻雀 majan mahjong
 
大辞林(三省堂)平成二年(1990)
マージャン 麻雀 〔中国語〕  中国起源の室内遊戯。牌(パイ)を用い、普通、四人で行う。牌は直方体で、数牌三種の一~九までと、字牌の三元(白板(パイパン)・緑発(リューハツ)・紅中(ホンチュン))・四喜(東・南・西・北)の三四種で、各四枚、計一三六枚からなる。各自一三枚の配牌をもとに、順次牌の取捨を行って規定の組みあわせ(役)を早く達成した者が和了(ホーラ)を宣し、得点を得る。全員が親を四回終了すると一荘(イーチャン)が終る。日本には、明治末年に渡来。中国では「麻将」と書く。
 
大漢語林(大修館)平成三年(1991)
麻雀 遊戯の名
 
大字源(角川書店)平成四年(1992)
麻雀 マージャン〔俗〕 中国の室内遊戯の一種。四人一組み、百三十六個の牌(はい)で争うもの。
 
集英社国語辞典(集英社)平成五年(1993)
マージャン 中・麻雀  中国から伝来した室内遊戯の一つ。一三六個の牌(パイ)を用いて手役を作り得点を競い合う。ふつう、四人で行う
 
新漢語辞典(岩波書店)平成六年(1994)
麻雀 中国から伝わった四人一組でする室内遊戯。▼中国では「すずめ」の意で、マージャンは「麻将」という。
 
現代漢和辞典(大修館)平成八年(1996)
麻雀 マージャン 四人一組で行うゲーム
 
字通(平凡社)平成八年(1996)
項目なし
 
広辞林(三省堂)平成八年(1996)
マージャン 麻雀 《中国 ma chueh》  中国でおこった、室内遊戯の一つ。百三十六枚のパイを使い、普通、四人で行う。清代に流行し、わが国には大正末期に伝わった。
 
漢字典(旺文社)平成十一年(1999)
麻雀 マージャン  中国の室内遊戯の一種。四人一組で、百三十六個の牌(パイ)を用いて遊ぶ。

簡単なまとめ

以上の実例から次のようにまとめることができる。

1 戦前は賭博遊技とするものが多く、戦後は室内遊戯とするものが増えた。麻雀は、伝来当初から、賭け麻雀として遊ばれていたので、取締り当局も警戒していた。特に昭和十年代(1935~45)に戦時体制が強化されると、敵性国家の文化だということも言われるようになり、閉塞状況が続いた。しかし、一方では、榛原茂樹が有名だが、麻雀を賭博世界から救い出し、健全な頭脳ゲームとして確立しようとする者もいた。辞典類の編者、執筆者には、こういう健康な麻雀の動きは見えなかったようだ。戦後は、逆に、健全な室内遊戯であるとする理解が強まった。実は、リーチ麻雀の導入等により、賭博性の高い賭け麻雀が東京の上野等で盛んになったし、関西では独自のブー麻雀なども盛んになったが、辞典はそれを見て見ぬふりで、説明に反映されていない。善玉、悪玉史観が強過ぎはしないか。

2 「麻」の文字と「マー」という読み、「雀」という文字と「ジャン」という読みの間にある漢字理解のずれを説明する者が少数は存在したが、多くは説明抜きである。これだけでなく、麻雀の用語、関連語については、すでに一般社会で通用する語になっていても、辞典類に登場する例が乏しかった。「リーチ」は「(ボクシングなどで)伸ばした腕の長さ」だけである。「麻雀:中国伝来の室内遊戯。竹を裏に付けた、百三十六枚のパイを遣い、四人で勝負を争う。」の後に「〔金を賭け、徹夜でする者が多い〕」」という捕捉が付く例などは、執筆者としての腰が座っていない感じが濃厚で大いに笑える。何十年も前の学生の頃の自分の思い出を一般化して語るな、である。

3 日本への伝来の時期を明治末期とするものと大正年間とするものとに別れる。また、伝来ではなく流行、普及が大正末期だとする説明に逃れるものもある。一件だけだが、名川彦作の名前が出てきたのには、「物識り辞典」かと驚いた。こんなことに筆を伸ばす余裕があるならば、「麻」と「雀」の語義の説明をきちんとしてほしかった。

4 遊技の用具、とくに麻雀牌の説明をするものが多い。なぜ、百三十六枚と細かく説明するのか趣旨が分からないがこれが定番である。なお、再版の際に、使用する牌の数を百四十四枚を百三十六枚に改めた例がある。説明のミスを是正したのではなく、実際に、日本に伝来した当初は花牌も使って百四十四枚、百四十八枚で遊技することもあったが、そのうちに花牌を除いて百三十六枚で行う「素麻雀」が優勢になった社会的な変化を反映しているのがおかしい。それにしても、麻雀で使う牌が何枚かを知りたくて漢和辞典をひく人がいるのだろうか。読者の求めていないサービスで余計だと思うが、それとも、これがないと同業者の間で手抜きだと言われるのが怖いのだろうか。

5 遊技の進行を説明するものがあるが、記述が不正確でよく理解できない。遊技場面のイメージが湧かない。麻雀って何だろうと思って辞典を手にする利用者に、これで遊技の実際が想像できるようになるのであろうか。何が楽しくて麻雀をするのか、遊技者の気持ちが少しは理解できるようになるのだろうか。

6 遊技全体の進行、勝負の決着方法、得点の計算法を説明するものが少ない。仮に野球の説明で、「試合は直球が多く、カーブもあります。消える魔球もあります。おわったら勝ち負けを決めます」という説明があったら、何が何だか分からないこれと同じような妙な説明が麻雀の関係でも多い。せめて、「野球」で言えば「一回から攻守を繰り返し、定められた回数を終えたら各々のチームごとに得点を合計し、多い方を勝ちとします」くらいの説明が欲しい。

ここでは、私流の「麻雀」とその関連語の説明文の披露は僭越すぎているので、グーグル翻訳の英語での説明を引用しよう。それはこうである。a Chinese game played, usually by four people, with 136 or 144 rectangular pieces called tiles. The object is to collect winning sets of these tiles, as in card games such as gin rummy.翻訳すればこんなものであろうか。「中国のゲーム。通常四人で行う。タイル(化粧レンガ)と呼ばれる百三十六枚ないし百四十四枚の直方体のコマを用いる。遊技の目的はカードゲームのジンラミーのように、勝ちとされるタイルの組合せを作ることにある。」スペースがもう少しあればこう補足したい。「中国のゲーム。二十世紀前半の三分の一の期間にアメリカや日本などに本格的に伝来して広く愛好された。通常四人で行う。タイル(化粧レンガ)と呼ばれる百三十六枚ないし百四十四枚の直方体のコマを用いる。遊技は八ラウンド(半チャン)ないし十六ラウンド(一チャン)で行われ、各ラウンドでの遊技の目的は、カードゲームのジンラミーのように、勝ちとされるタイルの組合せを他の誰よりも早く作ることにある。遊技終了後、各ラウンドでの得点、失点を各人ごとに合計して、その多寡で勝ち負けを決める。」

日本の辞典では、全体を通じて説明がバラバラで、一定の、共通した、妥当な理解が得られない。辞典の利用者が、麻雀の何についての知識を求めているのかが分かっていないように見える。今後の改定時には、麻雀関連書なども採録候補書籍に加えてほしいものである。あるいは、きちんとした学術書も大修館書店から出たのであるから、この出版社で頑張ってきた諸橋轍次の『大漢和辞典』のように、昭和後期も「賭戯の一」で頑張ってきた書籍も、そろそろ考え直して、自社の学術書から語を拾い出して直しても良いのではないか。なお、浅見了のウェブサイト「麻雀祭都」論考44には千田俊太郎(千田俊太郎)の「麻雀ジャーゴン試論」[1]が掲載されている。麻雀関連語の言語学的な分析と考察で、大変に面白いが、専門に過ぎて、ここで検討してきた「麻雀」と「まあじやん」の関係については今一つ明らかでない。


[1] http://www9.plala.or.jp/majan/tre44.html

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