江戸時代、鎖国の時期には、外国に関する興味が偏ったためであろうか、異国語の「単語かるた」はほとんど出版されていない。わずかに一点、「倭蘭あはせかるた」[1]が伝えられているだけである。これは昭和前期(1926~45)に復刻されたが、それに関する研究は聞かない。かるた史の史料として紹介するのも今回が初めてである。

幕末の開国後には、状況は一変する。日本は、安政五年(1858)に横浜、神戸などを開港し、対外貿易が本格化した。そこでは、アメリカ、イギリスの力が強く、貿易の場では英語が主として用いられ、また、外国人居留地の遊郭などでの交際、酒宴も英語の世界であった。こういう新たな変化に対応しようとしたのか、まず、高級な手描きの英語かるたが制作された。さらに、明治時代になって欧米との交際が当たり前になり、文明開化の波が押し寄せると、かるたの世界にも英語を取り上げたものが何点も登場した。これらのかるたを見ていると、この時期の英語の受容の仕方がよく分かる。英語のかるたは、明治前期(1868~1887)の文化の在り方を実証する絶好の史料である。ただ、この時期の外国語の伝来の経緯や英語教育史を扱った研究は多くあるものの、その中で特にかるたに焦点をあてたものは知らない。


[1] 『倭蘭あはせかるた』復刻版、藤堂家、昭和三年。

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