かつて阿部徳蔵は、かるたという遊戯具の世界を、大きくカルタ遊技、カルタ占い、カルタ奇術に三分して体系的に説明した。この優れた先行研究があるので、私も、カルタ占い、カルタ奇術にも関心があったが、カルタ占いに関しては、タロット占いの世界の、他者を寄せつけない独自な発展に圧倒されて早々に撤退した。

『トランプの不思議』(高木重朗、力書房)
『トランプの不思議』
(高木重朗、力書房)

カルタ奇術に関してはもっとみじめで、私は、ほとんど何も知らない。そもそもカルタ奇術の現場に立ち会ったことがないし、指南書も見たことがない。わずかに、高木重朗『トランプの不思議』[1]や松田道弘『トランプ・マジック』[2]などの著作を読んで、遠くからその活躍ぶりを見ているだけである。したがって、私の知識は小学生以下である。秘かには、賭博系のカルタ遊技における見事な手さばきには、きっとカード奇術の手さばきが影響しているのであろうと勝手に想像しているが、それを確かめることもしていない。もっとも初歩的な、カードの裏面の模様に細工がしてあって、そこから表面の紋標と数を読みとれるという初心者向けの仕掛けでさえ、じっと見つめれば識別できるが、一連の流れるような所作の中で瞬時に見抜くような優れた動体視力は私にはない。

「魔法のトランプ」(任天堂)
「魔法のトランプ」(任天堂)

ただ、一つだけ、書いておきたいことがある。それは、奇術用のトランプにはトランプ類税の課税があるのかないのかという問題点である。かつて「任天堂」は「魔法のトランプ」を制作、販売しており、添付されている色眼鏡を掛けてこれを見ると背面の模様にそのカードの紋標と数が浮かび上がって見えるという仕掛けである。面白かったのはこのカードにもトランプ類税の証紙が貼られていたことである。確かに、このカードで「魔法」を行うのは、実際の遊技が行われているタイミングになる。だが、その時に肝心の色眼鏡を持ってくるのを忘れていたら、「魔法」が効かないので、カードは普通のトランプになってしまうし、遊び手も普通の遊技者になってしまう。だからこれは奇術、遊技兼用の品物で、立派に課税対象であるという理屈だろうが、仕掛けは子どもだましで、このトランプの持ち主が、とても奇妙なおもちゃのサングラスを持ち出して、自分はこれを掛けてゲームすると言い出したら、子どもの世界でもそれだけで十分に怪しい。子どもの遊戯に使えても、大人の遊技には使えない。

なんだか、トランプ類税法の解説書の一問一答の欄で、「奇術用のトランプは課税対象になるのでしょうか。」という問いに、「昭和三十二年政令第百五十八号、トランプ類税法施行令」の「第六条第三号(適用除外のトランプ類)」には、「三 奇術の用に供されるトランプ類その他のトランプ類で、大蔵省令で定めるもの」とあり、もっぱら奇術用のトランプ類似の品物は課税対象ではありませんが、実際に遊技にも使えるトランプは課税対象に含まれます」、などと答える国税庁の役人の文章みたいになってしまったが、「任天堂」の消印のある証紙を見たときのインパクトが強かったので今でも記憶している。

奇術用のトランプには、一組四紋標五十二枚のように見せかけて実は特定の図柄の札が何枚も入っているものがある。これは遊技には使えない純粋の手品ネタであるから非課税であろう。だが、例えば特定のカードだけほんの少し大きくできていたりする場合は、そのネタを無視して遊技に使うことができる。まして、普通のトランプを使って奇術を行うマジシャンにとっては迷惑な話であっても、一組四紋標五十二枚でなおかつ奇術ネタというものがあり、それは、遊技用に転用可能なのだから課税対象なのであろう。私は不勉強で、カード奇術の専門家が書いた著作物の中でこの点がどう説明されているのかを知らない。だからもしかすると、奇術の世界ではだれでも知っていることを説明する愚を犯していたら、初心者のことゆえ寛大にお見逃しいただきたい。なお、高木の著書[3]には、こんな記述がある。カード奇術の側にも私とは違う独自の価値観とプライドがあることが分かった。

6.カードの取り扱い上の注意 奇術用のカードは決してゲームには用いないようにして下さい。ゲームをして乱暴に扱うと、一度で使いにくくなってしまいます。これは加工したカードなどの場合、特に気をつけていただきたい。また汚れた手で取り扱うこともつつしんでもらわねばなりません。使用後はかならずケースに入れておくことを忘れないで下さい。そのままポケットに入れたり、テーブルの上に出しっぱなしにしておくと、くせがついたり、枚数がたりなくなることがあります。

以上のような次第で、ここでは、タロットのページのように書籍になっている基本的な先行業績を紹介することさえできない。このページ自体も、見苦しい言い訳に終始していてみっともない。お詫びして閉じさせていただく。


[1] 高木重朗『トランプの不思議』、力書房、昭和三十一年。同『復刻版 トランプの不思議―現代カード奇術入門―』、東京堂出版、平成二十三年。

[2] 松田道弘『トランプ・マジック 松田道弘遊びの本1』、筑摩書房、昭和五十五年。

[3] 高木重朗、前引注[1]『トランプの不思議』、八頁。

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