役の紹介では、まず、金銀彩のある「金入札」に注目したい。これから紹介する百に近い役では、ごくわずかな例外を除いて、役を構成する札の中に必ず金入札が含まれる。金入札が最も多いのはすぐ下で紹介する「五光(ごこう)」であり、最も少ないのは、数札八枚の中にポツンと存在する「青馬」一枚の「野馬(のうま)」である。「青の切」一枚の「野切(のきり)」、「あざ」一枚の「弁天(べんてん)」、「釈迦十」一枚の「護国寺(ごこくじ)」等も同じ趣向である。いずれにせよ「金入札」が役の成立する鍵である。

役は、時代が降り、読みカルタが盛んになるにつれて、各地各所の遊技仲間が自分流に改めるので多様化し、また増えていった。そのうちのどれが初期から続いている役であるのかを的確に指摘することは困難である。ただ、江戸時代前期の文献資料などからすると、「三光(さんこう)」「三皇(さんこう)」という名称の役が古くから目立つ。これは、「ハウの二」(後の「青二」)、「ハウのソウタ」(後の「釈迦十」)、「ハウの一」(後の「あざ」)の三枚に、高い価値と多様な使用可能性を認めて、切札として活用するルールから発生し、最強の切札三枚が同時に手札として配分されたことを祝して役にするものである。この三枚には金銀彩を施して平札と区別するようになったので、これらは三光役と呼ばれるようになり、江戸時代中期になると、歌舞伎が人気を得て、最高の役が最高の役者と重なって「團十郎(だんじゅうろう)」と呼ばれるようになった。

読みカルタの役には、まず、この三光役から発して徐々に拡大した三光役系の複合役がある。この役では、金入札が多く手札にあるので、いくつもの役が複合的にでき上る。

五光
「五光」(『雨中徒然草』)

「五光」役は、九枚の手札の中に「青二」「釈迦十」「太鼓二」「青きり」「青馬」「あざ」の六枚の「金入」札が含まれている場合の役である。このような事態はまず生じることはない、二万回のゲームで一回出現する程度に確率の低い、極めてまれな札の組み合わせである。これを細かく見ると、①團十郎役(「あざ」「青二」「釈迦十」)で五ツ、②五光(團十郎)役(「あざ」「青二」「釈迦十」「青馬」「青きり」)で五ツ、③五光(竹つな)役(「あざ」「釈迦十」「青馬」「青きり」「太鼓二」)で五ツ、④四光役(「あざ」「釈迦十」「青馬」「青きり」)で五ツ、⑤天上(てんじよう)役(「あざ」「釈迦十」「青きり」)で三ツ、⑥上三(かみざん)役(「釈迦十」「青馬」「青きり」)で三ツ、⑦こんてい役(「あざ」「釈迦十」「青馬」)で三ツ、これに⑧「光リ」上り、つまり「金入札」を投げて九枚を打ち切り上りになったので一点、⑨二付(につけ)役(「青二」「あざ」「青馬」)で一点、「〆三十役」とされている。⑧の「光リ」上りはこの計算に含まれないのだろう。なお、この「五光」役は、この六枚の光物札以外の三枚の札には「コップ」や「オウル」の絵札が含まれない「白繪」であることが条件になっている。三折の勝負であれば九十点であり、一点が五文の計算であれば二百七十文となる。これは高額に過ぎるが、この手はまず生じないとてもレアな最高点の役である。

ただし、私は、この説明に納得していない。「五光」というのだから金入札が五枚で役を構成するはずであるが、図像には上記の金入札六枚が並べられており六光の様に見える。点数の計算も〆て三十点というのだからそれに従えばこういう説明になるが、これは二種類の五光役のパターンを混同しているように見える。つまり、五光役には團十郎役(「青二」「釈迦十」「あざ」)で五ツ、五光(團十郎)役(「青二」「釈迦十」「青馬」「青きり」「あざ」)で五ツの場合と、竹(たけ)つな役(「あざ」「太鼓二」「釈迦十」)で四ツ、五光(竹つな)役(「釈迦十」「太鼓二」「青きり」「青馬」「あざ」)で四ツの場合があって、多様な組み合わせのいずれでも五光になるという説明がごちゃ混ぜになったのではないかと思われる。

「ゴミ五光」役は五光役に準じるもので、役札を構成する札以外の四枚の札の内に絵札が一枚でも入っている場合である。点数が、①五光役が五ツ、②團十郎役が五ツ、③四光役が四ツ、④上三役が二ツ、⑤こんてい役が二ツ、それに⑥「光リ」つまり「金入札」の上りで一ツ、⑦もう一度「光リ」の上りで二ツ、〆て二十点とされている。ここでも「光リ」上りは含まれないのだろう。この二度目の「光リ」上りが何を意味するのかが良くは分らない。また、天上役の二ツが抜けているなど、五光役の役点の説明と一致しない。

なお、五光役でもゴミ五光役でも、「しし」(「青二」「あざ」「太鼓二」・一ツ)、「てんてん」(「青二」「太鼓二」「釈迦十」・一ツ)、「菊治郎(きくじろう)」(「青馬」「青きり」「あざ」・役点不詳)などの役が度外視されている。

「四光」役は「釈迦十」「青馬」「青きり」「あざ」の四枚で構成される。白絵の場合は四光役が五ツ、天上役が三ツ、こんてい役が三ツ、これに説明が抜けている上三役が三ツ、菊治郎役(役点不詳)を加えると、合計十四点+アルファであり、ゴミ入りの場合は四光役が四ツ、天上役が二ツ、こんてい役が二ツで合計八点である。

おすすめの記事