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(一)「めくりカルタ」の発祥

めくりカルタの発祥については比較的に史料が整っていてよく分かり、私も『ものと人間の文化史173 かるた』で細かく説明したので、ここではそれを転載するとともに、書き込めなかったものも加えて説明しておこう。

めくりカルタ遊技図(『近頃島巡り』)
めくりカルタ遊技図(『近頃島巡り』)

めくりカルタは、明和年間(1764~72)に江戸で、「てんしょ(合せ)」系の「めくり」という新たな遊技法として成立し、安永年間(1772~81)に大流行して、江戸時代中期(1704~89)のカルタ遊技の主役の座に昇り詰めた。安永八年(1779)刊の市場通笑『近頃嶋めぐり』[1]は女護島の遊技について「女計(ばかり)の島故遊女町といふは無し。楽みは少く。琴三味線は子供の内。年が寄と碁。将棋。壽語六(すごろく)。朝夷(あさいな)が行(ゆき)し時分はよみといふ物が流行(はやり)。近年は又めくりとやらいふ事が流行(はやり)。」として、以前の「読み」の流行と当時の「めくり」の流行を取り入れている。同じく安永八年(1779)刊の洒落本『百安楚飛』[2]は江戸の町民の遊楽を一年の各月毎に面白く説明して金銀が大事であるとする著作であるが、「かるた寶引は初春のもてあそびもの」とするなかで、「めくり」が流行して隠居も後家も奉公人も皆夢中になってのめり込んでおり、とくに遊技中に新考案の「鬼札」が手に入るように願ってやまないが、熱中するあまり親しい友人と争い、あるいは病気になることを鬼のたたりだというのである。

「めくり」は、当初はあくまでも遊技法の名称であったから、この遊技に使われるカードについては、賭博系カードの総称であった「読みカルタ」がそのまま使われていて、「めくり」をしたのに「読みカルタをした」とか、「読みカルタでめくりをした」という記録も少なくなかったが、大流行に伴い、江戸の好みに合わせて「天正カルタ」系のカードが改良され、「めくり」専用のカード、つまり「めくり札」ないし「めくりカルタ」が売り出された。

笹屋のカルタ札(『雨中徒然草』日本かるた館復元品)
笹屋のカルタ札
(『雨中徒然草』日本かるた館復元品)

めくりカルタの図像の特徴はいくつかある。これは江戸好みということであったが、江戸だけでなく、主要な制作元であった京都のカルタ屋から全国に広まっていった。そして「めくり」の大流行に伴い、今度は賭博系のカードの総称がめくりカルタと呼ばれる逆転現象も起きた。「めくり」遊技用のめくりカルタでは、「松葉屋」系の「読みカルタ」や「ほてい屋」系の「合せカルタ」「天正カルタ」のように長年にわたって制作されるうちに江戸時代初期(1603~52)の「カルタ」の図像がデフォルメされて崩れたものと異なり、たとえば「イス」の剣の柄、「コップ」の形状、「オウル」の円形などで初期のカルタ図像の特徴がしっかりと残されている。「松葉屋」や「ほてい屋」に押されながらも先祖から伝わる独自の図像を守り続けてきた「笹屋」などのカルタ屋のカードが江戸でスポットライトを浴びることになったのである。

次に、以前のカルタは木版手彩色であったところめくりカルタでは木版合羽(かっぱ)摺りに制作方法が変化して、これに伴い「ハウ」や「イス」を太い描線に彩色できるようになったので、力強い図像になった。さらに、めくりカルタでは「めくり」遊技の役札に合わせて金銀彩がなされたので、「てんしょ(合せ)」カルタの遊技法の頃には役札であったがめくりカルタでは役札ではなくなった「オウルの六」から金銀彩が消えていることが特徴である。また、めくりカルタにはトランプのジョーカーのような「鬼札」が加えられている。

カルタは京都、大坂で制作されたものが江戸に流れ込んでいたが、京都のカルタ屋のうち、「松葉屋」はこの変化に対応せず、「ほてい屋」も畿内や尾張、西日本一帯で依然として盛んだった「天正カルタ」系のカードを作り、江戸の新規の需要に応えたのは同じ京都でも「笹屋」などの店で、さらに、「めくり」の全国的な普及に伴って、各地でその地方の「地方札」が売り出された。それの末裔は昭和後期(1945~89)まで残存して、業者間の呼称で「金極」「三扇」「福徳」「黒馬」「地天正」「下天正」「小獅子」「黒札」などと呼ばれて制作されていた「地方札」にその特徴が色濃く残っている。たとえば、江戸の「読みカルタ」やめくりカルタでは「赤の二」のカード上に、海老のような、あるいは注連縄のような金銀彩が加えられ、後にそれは木版の骨摺りとしても登場することになったが、これは「松葉屋」という屋号を入れていた「松葉屋」カルタや「布袋」の絵姿を入れていた「ほてい屋」カルタにはない工夫で、「笹屋」などが採り入れて、江戸にひろまったものと考えられる。

めくりカルタのオウルの二 (上段・江戸時代、下段・昭和後期地方札)
めくりカルタのオウルの二 (上段・江戸時代、下段・昭和後期地方札)
海老二の札 (左より江戸中期二枚、江戸後期、幕末期)
海老二の札
(左より江戸中期二枚、江戸後期、幕末期)

[1] 市場通笑「近頃島めぐり」『校訂黄表紙百種全』、博文館、大正十五年、一一五頁。

[2] 時雨庵主人「百安楚飛」『洒落本大系』第三巻、林平書店、昭和六年、四七六頁。

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