メニュー

(二)実在したのは「花鳥風月合せかるた」

花鳥風月合せかるた」  (制作者不明、明治前期)
花鳥風月合せかるた」 (制作者不明、明治前期)

ところが、花鳥風月かるたの実態は、妙に「花札」との関連を強調されたためにむしろ見えにくくなっていた。確かに私は「花鳥合せ」の花札史上の意義について格下げを果たしたが、かつての論者たちの誤解に基づく歪んだ理解が消えただけで、今度は逆にその存在すら無視されるようになっては「花鳥合せ」こと「花鳥風月かるた」としては不本意であろうと思う。そこで、「花鳥風月かるた」の実像を明らかにするために、その構成について、手元にある四十紋標、百六十枚のかるたを紹介しておきたい。

これは、江戸時代後期か幕末期か、極めて丁重に制作された手描きのかるたであるが、その図像とカードに付けられた点数は奇妙である。

「花鳥風月合せかるた」②  (江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」②
(江戸時代後期~幕末期)

「花鳥風月合せかるた」①  (江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」①
(江戸時代後期~幕末期)

「花鳥風月合せかるた」⑤  (江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」⑤
(江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」④  (江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」④
(江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」③  (江戸時代後期~幕末期)
「花鳥風月合せかるた」③
(江戸時代後期~幕末期)

点数の高低の順に見ると次のようになっている。

「花鳥風月合せかるた」(制作者不明、江戸時代後期~幕末期)

     海に日の出(七千点)1枚+海(七百点)3枚(以下では枚数を省略)

      蝙蝠に月(五千点)+蝙蝠(五百点)

      富士山に昇竜(五千点)+富士山(五百点)

      大福帳に暫の鎌倉権五郎(四千点)+大福帳と太刀(四百点)

      蛤に楼閣の蜃気楼(三千点)+蛤(五百点)

      大根と鏑矢(千五百点)+大根(百五十点)

      鳥籠に雄鶏(千五百点)+鳥籠(百五十点)

      牡丹に蝶(千五百点)+牡丹(百五十点)

      粗朶に風車(千点)+粗朶(百点)

      桜に立雛(千点)+桜(百点)

      娘道成寺の烏帽子と中啓に釣鐘(千点)+娘道成寺の烏帽子と中啓(百点)

      斧に酒杯(八百五十点)+斧(八十点)

      羽箒に鼡(八百点)+羽箒(八十点)

      藤に狆(七百点)+藤(六十点)

      布袋の袋に布袋(七百点)+布袋の袋(六十点)

      笹竹に雀(五百点)+笹竹(五十点)

      藪甘草に猫(五百点)+藪甘草(五十点)

      若松に鶴(五百点)+若松(五十点)

      梅に鳥居(五百点)+梅(五十点)

      稲穂に鳴子(五百点)+鳴子(五十点)

      紅葉に酒瓢箪(五百点)+紅葉(五十点)

      芙蓉に白鷺(五百点)+芙蓉(五十点)

      葛に兎(五百点)+葛(五十点)

      杉に杜鵑(五百点)+杉(四十点)

      神楽鈴におかめの面(五百点)+神楽鈴(四十点)

      百合に柿の実(五百点)+百合(四十点)

      笹に海老(三百点)+笹(五十点)

      萩に雀(三百点)+萩(五十点)

      蔦に烏(三百点)+蔦(五十点)

      柘榴に鶯(二百点)+柘榴(五十点)

      葡萄に籠(二百点)+葡萄(五十点)

      山桜に緋扇(二百点)+山桜(五十点)

      桔梗と芒に鳴く虫(二百点)+桔梗と芒(五十点)

     水草と金魚(百五十点)+水草(五十点)                        

     蓮に鴫(百点)+蓮鴫(五十点)

     岩に蘭(百点)+岩(五十点)

     撫子に蜻蛉(百点)+撫子(三十点)

      麦穂に雲雀(八十点)+麦穂(四十点)

      女郎花に鶉(八十点)+女郎花(四十点)

      蓮華花に文箱(八十点)+蓮華花(三十点)

これを、図像の種類別に整理すると、次のようになる。

【花樹・六種】梅(五十点)、桜(百点)、藤(六十点)、牡丹(百五十点)、萩(五十点)、山桜(五十点)

【花のない樹・五種】若松(五十点)、紅葉(五十点)、杉(五十点)、柘榴(五十点)、葡萄(五十点)

【草花・八種】桔梗と芒(五十点)、葛(五十点)、芙蓉(五十点)、百合(四十点)、藪甘草(五十点)、撫子(三十点)、女郎花(四十点)、蓮華花(三十点)

【水生植物・二種】水草(五十点)、蓮(五十点)

【その他植物・五種】大根(百五十点)、麦穂(四十点)、笹竹(五十点)、笹(五十点)、蔦(五十点)

【植物以外の自然物・五種】海(七百点)、富士山(五百点)、岩(五十点)、蝙蝠(五百点)、蛤(五百点)

【人工物・九種】大福帳と太刀(四百点)、鳥籠(百五十点)、粗朶(百点)、娘道成寺の烏帽子と中啓(百点)、斧(八十点)、羽箒(八十点)、布袋の袋(六十点)、鳴子(五十点)、神楽鈴(四十点)

さらに、高点札に添えるもので整理すると次のようになる。

【鳥・十一種】鶏(千五百点)、雀(五百点)、鶴(五百点)、杜鵑(五百点)、白鷺(五百点)、雀(三百点)、烏(三百点)、鶯(二百点)、鴫(百点)、雲雀(八十点)、鶉(八十点)

【動物・九種】蝶(千五百点)、鼡(八百点)、狆(七百点)、猫(五百点)、兎(五百点)、海老(三百点)、鳴く虫(二百点)、金魚(百五十点)、蜻蛉(百点)

【植物・二種】柿の実(五百点)、蘭(百点)

【自然・二種】日の出(七千点)、月(五千点)

【人間・二種】暫の鎌倉権五郎(四千点)、布袋(七百点)

【人工物・十四種】昇竜(五千点)、楼閣の蜃気楼(三千点)、鏑矢(千五百点)、風車(千点)、立ち雛(千点)、釣鐘(千点)、酒杯(八百五十点)、鳥居(五百点)、鳴子(五百点)、酒瓢箪(五百点)、おかめの面(五百点)、籠(二百点)、緋扇(二百点)、文箱(八十点)

「花鳥風月合せかるた」 (草花図像の札)
「花鳥風月合せかるた」 (草花図像の札)
「花鳥風月合せかるた」 (人工物図像の札)
「花鳥風月合せかるた」 (人工物図像の札)
「花鳥風月合せかるた」 (樹木図像の札)
「花鳥風月合せかるた」 (樹木図像の札)
「花鳥風月合せかるた」  (植物その他自然物図像の札)
「花鳥風月合せかるた」
(植物その他自然物図像の札)

こうしてみると、「花鳥合せ」という呼称そのものがいかに不適当な後世の誤解であるかは明白である。四十紋標の内、花樹は六種、草花は八種、水生植物の花は二種、合計で四十パーセントにすぎない。このかるたの紋標は花であるという理解は実際を調査しないファンタジーである。同様に、鳥も十一紋標、三十パーセント弱に留まる。これを以て「花鳥合せ」と呼ぶのはいかにも不適切である。

このかるたに付された点数の趣旨は分からない。最大が七千点、最少が八十点ではあまりにも格差がありすぎてよい点数の札を取ればそれだけで勝敗が決まってしまうように見える。こうした格差のある点数の表示は他の「花鳥合せかるた」にもみられるのであるから、ゲームの中での役割を想定したいがよく理解できていない。

なお、私は、アメリカ、イエール大学図書館のカリー・コレクションで、これに類似した花鳥風月のかるたを見たことがある。残存しているかるた札は百六十三枚であるが、一紋標が四枚で構成されているとすると欠けているものが多く、元来は二百枚で一組のかるたの残欠ではないかと思われた。興味あるのは札の図柄と点数である。若干を例示すると、高点札に、若松に鶴(一萬点)、波頭に兎(一萬点)、桐花に鳳凰(一萬点)、梅花に兜(七千点)、竹に雀(五千点)、蛤に竜宮城(五千点)、夫婦岩と朝日(四千点)、満月に雲(四千点)、稲穂に雀(四千点)などがあり、同じ紋標でも他の三枚の札は十分の一程度の点数である。また、高点札が数百点というものも多く、三枚の札は数十点になる。

カリー・コレクション・カタログ
カリー・コレクション・カタログ
カリー・コレクションの「花鳥合せ」
カリー・コレクションの「花鳥合せ」

このカリー・コレクションの花鳥風月かるたは、画題や図柄的には架蔵のものと似ており、大きな点数が書かれている点も類似性を際立たせているが、図像は江戸時代後期(1789~1854)のものと思われ、架蔵の幕末期(1854~68)か明治前期(1868~87)の花鳥風月かるたよりも古い。思うに、カリー・コレクションのものの様に元々は絵合せかるたに標準的な一組が五十紋標、二百枚構成のかるたであったものが、幕末期から明治前期の激動の時期に一組が四十紋標、百六十枚に減らされたのであろうか。この辺は、史料不足でよく分からない。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です