絵ハガキ「花畫葉畫」
絵ハガキ「花畫葉畫」

もうひとつは、明治三十九年(1906)に東京市日本橋區馬喰町二丁目十四番地の綱島商店、綱島亀吉から発行された、花札図柄の絵葉書、「花畫葉畫」第一集六枚、第二集六枚、合わせて十二枚である。これは、画家であり、書家である田中三省の筆になるもので、一枚の絵葉書ごとにその表面を四分割して、「松」「梅」以下の紋標別に、一枚に一紋標、四枚の花札図柄のコマを描いている。これをコマに切断すれば実際に花札として通用する仕掛けであるが、何しろ絵葉書であり、これを実際に使って送られた相手先は、一紋標だけを受け取るのであるから、到底花札としての実用性はない。もし花札としての魅力を感じて実際に使おうと思うのであれば、第一集、第二集を共に入手して十二枚、四十八コマを切断しなければならない。こうした意味合いでは、これはやはり実用の物というよりは花札の花柄の絵を鑑賞して楽しむ趣味の物であろう。実際、第一集と第二集は同日の発売であり、当初から十二枚が一組のセットとして制作されており、ただ絵葉書に求められるボリューム感の社会常識に対応して二分割して、六枚を一組にしたものである。東京銀座三丁目の「上方屋」は、カルタ類と共に、絵葉書の販売にも熱心であった。この『花畫葉畫』を見ていると、銀座の店で、熱心にこれを客に売り込んでいる主人、前田喜兵衛の店員姿の様子が脳裏に浮かぶ。

絵ハガキ「花畫葉畫」の袋
絵ハガキ「花畫葉畫」の袋

ここで無粋なことを書くが、この絵葉書セットは骨牌税法に違反している。購入者が自分で細工すると容易に花札として使えるものは課税対象である。だが、絵葉書セットは「第一集」、「第二集」とも「六枚一組定價拾八錢」であり、二組を一緒に買えば一組十五錢、合わせて三拾錢である。こういう価格の商品にとって、二組で骨牌税二拾錢の上乗せは三十錢が五十錢になるので酷である。だから、これは脱税している。絵葉書はカルタではないという抗弁は税務署では通用しないのだが、それでも主張するつもりなのか、十二枚一組ではなく、六枚一組なのだからこれは花札ではないと懸命に抗弁する姿が思い浮かぶ。そして、このようにゲスな気持ちで見ると、なるほど、包装袋のどこにも、絵葉書そのもののどこにも、「花札」だとか「かるた」だとかいう言葉はなく、袋には「繪はがき」と書かれている。これで、花札ではなく、花札にヒントを得た絵葉書ないので骨牌税は非課税という主張なのであろう。実際には、無免許、非課税で制作、販売されていたようである。酷税への抵抗が認められてよかった。

この絵葉書には、作者の考え方から、大胆に新しい図柄が描かれている。伝統の大和絵の画風で、日本の色彩、和色の絵具を使って、淡く美しい画面に仕上げてある。図柄は大きく変更されており、通常の花札では「生き物」が登場する十二枚に対応するこの絵葉書絵の十二枚では、そのすべてに人物が配されている。通常の花札では、「生き物」といっても「幔幕」や、「八つ橋」や「盃」など、「生き物」ではない図柄もあるが、田中はすべての紋標に人物を配したので、この小さな違和感は解消した。また、短冊札は、短冊ないし色紙形で、色彩は赤短冊、青短冊の別を踏襲しているが、その上に俳句が書かれている。その句であるが、金銀彩の顔料が剥げて読めないものがあるので一部の紹介が欠けるが、「梅」は「なつかしき 枝のさけめや 梅の花」(其角)、「桜」は「木のもとに 汁もなますも 櫻かな」(芭蕉)、「藤」は「ふちの花 ちれは又さく 戰きかな」(作者不詳)、「杜若」は「かきつはた 似たりやにたり 水のかけ」(芭蕉)、「牡丹」は「飛ぶ胡蝶 まきれてうせぬ 白牡丹」(杉風)、「萩」は「しら露も こぼさぬ萩の うねりかな」(芭蕉)、「菊」は「きくの香や 庭に切たる 沓の底」(芭蕉)、「柳」は「八九間 空に雨ふる 柳かな」(芭蕉)、「芒」とか「桐」は色紙も短冊も描かれていない「休み」である。なお、十二紋標、二十四枚のカス札は、いずれも大胆な構図になっている。

私は、この絵葉書のうち、第一集のみを数十年前から所蔵していたが、どうしても第二集が蒐集できず、このウェブサイトの立ち上げ時にも、ぜひとも掲載したかったのであるが、悔しくも史料が中途半端なので保留せざるを得なかった。それが令和年間(2019~)になって、思いがけず、ある人から第二集を譲ってもらうことができたので、埃をかぶっていた第一集にも出番が来たことになり、かるた仕立にしてこのサイトの花札の画像一覧に加えることができた。ただし、この文章では、史料としての利用価値を重視して、原形のままで掲載する。いずれにせよ、伝統の大和絵の和色絵具を使った淡く美しい図柄には感動するし、花札の文化に敬意をもって接している田中三省の人柄、画家としての画題に向かう時の気持ちの在り方を明らかにできて、とても嬉しく思っている。

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