
先日、アメリカ、オレゴン大学の研究者、蒋霊均(ジャン・リンジュン、JIANG Lingjun、日本では「ショウ・レイキン」とも呼ばれる)さんが、当サイトの事務室兼史料保管庫を訪ねてこられた。ここは2025年7月29日に蒋さんが出演したNHK総合チャンネルの番組「最深日本研究~外国人博士の目~幻のカルタを見たい」での対話場面の収録場所でもあったのだが、収録の日は大忙しで、当文化館の保有するカルタ史料について蒋さんの研究手法、「熟覧」(史料を手にして詳細に調べる歴史研究者の調査研究技法)を試みる余裕もなかった。心残りだったのであろう、日を改めて再訪なさったという次第である。
この日は、午前中から午後いっぱい、さらに夜間にまで延長してカルタ史談義に耽り、史料を閲覧、撮影、記録していただき、帰路にはコンビニでカラーコピーも撮影してお持ち帰りなさったので、今後の蒋さんの研究の進展が楽しみである。だがこの経過はこの文章の主題ではない。
実は、蒋さんにお見せするために当館保管の史料箱を卓上で開けたところ、思いがけず、五十枚以上の千社札のセットが出てきた。制作時期は今から百年前の大正時代であるが、さて、これは何ものなのか。よくあることだが、私はこの史料を入手した時とか、入手の経路とかはまったく記憶していない。ただ私は、千社札の文化史そのものには興味が薄かったのだから、全体が「いろはかるた」風の仕立てになっていることへの興味で、かるた文化史の史料として入手したものではなかろうかと思われる。ところが蒋さんはこれを見つけると、「千社札だ、千社札だ」と踊り出すように喜こばれた。そこで思い出したのは、かつてオレゴン大学のホームページを閲覧していた時に、この大学は日本の千社札についての国際的な研究のセンターだという記事があったことである。蒋さんも、この未公開の新史料を見たら、オレゴン大学で千社札を研究している同僚たちはどれほど喜ぶかといい、これをカルタ館のネット上で公開して、オレゴン大学はもちろんだが、世界各地の千社札史の研究者に情報提供するべきだ、とのアドバイスをいただいた。
オレゴン大学図書館は、以前に所蔵の千社札史料を全面的にデジタル公開しているし、そのコレクションの素晴らしさを知った立命館大学アート・リサーチセンターは、今年六月にその画像公開を行った。このように千社札研究が進展している時期に、たまたま私が保有している千社札について、蒋さんのご指摘で史料価値を教えられて何かお役に立てるのであれば幸いだと思う。私は、もちろん、蒋さんの指摘に異論があるはずもないのだが、それなのにこの史料が長年、史料箱に眠っていたのは、私にその史料的価値が分からなかったからである。おのれの無知が恥ずかしいが、遅まきながら、大急ぎで史料公開の準備を整えた。これを公開して、蒋さんの激励にお応えしたい。なお、史料の中身やその価値については、まったくの素人の私が知ったかぶりをするのではなく、この公開資料をご覧になる研究者の方々のご判断にお任せしたい。
最後に、思いがけずこの機会へのドアを開いてくださった蒋霊均さんにあらためて感謝申し上げたい。
