一 よみがえった「南蛮カルタ」

ベルギーカルタ博物館HP
ベルギーカルタ博物館HP

今年、2021年に、日本のカルタ史研究は大きく飛躍できた。これまで全く謎のままであった16世紀後半に日本に到来したヨーロッパのカルタ、つまり「南蛮カルタ」の実物が、450年後になってベルギーで再発見されたのである。日本のカルタの歴史はポルトガルの商船による「南蛮カルタ」の到来に始まる。しかしそのことを裏付ける文献史料、物品史料、伝承がいずれも欠落している。そのために、これまでの日本カルタ史の叙述は、17世紀から今日まで、どれほど優れた先人、カルタ史の研究者たちでも、空漠としたイメージを語るのみで、学術的な裏付けのある叙述は「南蛮カルタ」を模倣した初期国産のカルタ、とりわけ筑後國三池村(現在の福岡県大牟田市)で制作された「三池カルタ」の説明で始めなければならなかった。

1970年代から研究を始めた私も、ほぼ50年精進して修行して、いくつかの埋もれていた文献史料、物品史料の発見あるいは既知の史料の再検討による新発見という成果を表わすことができたものの、始源の「南蛮カルタ」そのものを語ることができず、その欠落感は常に悩ましい思いであった。それだけに、今回の再発見の知らせには心が躍る。偉大な先人たちが夢見ながら誰一人見ることができなかった物品史料の画像を実際に観察して調査する機会を得て、また、私自身でそれを補正して48枚のカードの全貌を蘇らせることができて、研究者として恵まれた境遇を得たことを感謝している。

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