五 今回の発見の意義

今回の「南蛮カルタ」の蘇り(よみがえ)りは、従来の学説が抱えていた、その存在を証明する史料のデータが空白であるという学説の大弱点を一挙に埋める研究上の価値をもつ。これにより、16世紀、他国に先駆けて工業化を成し遂げて繁栄し、北方ルネサンスの華を開かせたベルギーにおける木版のドラゴンカルタ制作という歴史が一挙に立証できた。このことは、世界のカルタ史研究者への福音である。そして、日本の歴史を扱う研究者にとっては、さらに、450年前のカルタ伝来を具体的にイメージできる最高の宝物の情報を得たことになる。これが日本の国内、国外での今後のカルタ史研究に与える影響は計り知れない。「南蛮カルタ」の分析、研究がやっと本格的に始められる、と言っても過言ではない。

今、ここでは、私は、こうして研究のフェイズの転換をもたらした新史料の蘇(よみがえり)の歓びを報告したい。これを活用した本格的な研究はこれからの仕事である。私に残されている研究の時間がどの程度のものであるのかは分からないが、少なくともこうして今はその研究にかかわることができているのであり、この歴史的な転換点に遭遇させてもらえた幸運に感謝したい。

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