三 アントワープ製のドラゴンカルタの登場

2021年に、「幻の南蛮カルタ」の探索は、新史料の発見に伴い、新たなステージを迎えることとなった。状況が変化したのは、同年1月に、ベルギーのNationaal Museum van de Speelkaartが所蔵品のデジタルな公開に踏み切り、画像をネット上で公開して、全世界に発信したからである10。21世紀に入ってから全世界で急速に拡大している歴史研究のデジタル化のおかげでこれが実現したのである。 

『ボストンの遊技、カルタの歴史』
ヘンリケス・ダ・シルバ『ボストンの遊技、カルタの歴史』

驚くべきことに、このデジタルに公開された収蔵品の情報の中に、1567年、日本に「南蛮カルタ」がやってきたまさにその同時代のベルギー製のドラゴンカルタ44枚が含まれていた。このカルタは、かつてはポルトガル国内で保存されていて、1942年のポルトガルの書籍、Henriques da Silvaの著書 “Tratado do Jogo do Boston. Com a Historia das Cartas de Jogar”11中で言及されていたが、そこには、このカルタがエルネスト・デ・ヴィヘナ司令官のコレクションにあり、ベアトリス・デ・ヴィセウ・ピニェイロ・サントス夫人によって紹介された旨の記述があるだけでカルタの画像はなく、イメージはまったく知られていなかった。その後これはフランスのコレクターの手に渡り長い間秘蔵された後に、2005年にNationaal Museum van de Speelkaartがそのコレクターから直接に購入して、その後、非公開のままに保存してきたのである。

カルタの歴史では、今から500年も以前に実際に使われていたカードが残っていることは極めて珍しい。しかも、残されているものは、通常はわずかに数枚のカードであり、それと比べると、1組48枚のうちで44枚ものドラゴンカルタが残っていたとなると、そのカルタを構成していた48枚のカードの復元も可能であり、奇跡だと言いたくなる。このカルタの場合は、4紋標、「こん棒(日本名:ハウ)」、「剣(イス)」、「聖杯(コップ)」、「金貨(オウル)」の各々にある「ドラゴン・エース(日本名:ロハイ)」、ドラゴンが絵柄になっているエースの札も4枚揃って残っている。これほどのカードが残存していたのはとても貴重なことで、カルタの大きさ、重さ、模様、図像デザインの特徴、着色された顔料などがよく分かる。図像中の記載から、制作者、制作年も分かる。さらにありがたいことに、カードの裏面の図柄、デザインまでもよく分かる。これはカルタ史の研究にとっては今世紀に入ってから最高の新史料の出現である。

復元ドラゴンカルタ
復元ドラゴンカルタ
ボハルデのカルタのドラゴンエース
ボハルデのカルタのドラゴンエース

¹⁰ https://erfgoedinzicht.be/collecties/detail/2116f6b0-5d2a-503d-85cf-8c399aafc798/media/a809e690-0b47-0898-a2f4-a52b16d8c244?mode=detail

¹¹ Henriques da Silva, “Tratado do Jogo do Boston. Com a Historia das Cartas de Jogar”, Prefacio de Egas Moniz. Editorial Atica, Lisbon, 1942, p.34~35.

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