(四) 花牌の多様なる図柄
「花牌」のインフレ期に、いくつものデザインが考えられた。「春」「夏」「秋」「冬」、「梅」「蘭」「菊」「竹」(地方によっては「蘭」「竹」「菊」「梅」の順)、「天官」「聚宝盆」「猫」「鼠」、「官人」「聚宝盆」「釣人」「魚」などのほかに、「福」「禄」「喜」「寿」、「魚」「蜻」「蟹」「蝦」、「棋」僧」「待」「月」、「風」「花」「雪」「月」、「漁」「樵」「耕」「読」、「琴」「棋」「書」「画」、「晴」「耕」「雨」「読」、「山」「間」「名」「月」、「江」「上」「清」「風」、「江」「村」「斜」「影」、「楼」「外」「青」「山」、「嫦」「娥」「奔」「月」、「天」「女」「散」「華」、「泰」「世」「人」「間」、「中」「華」「民」「国」、「文」「明」「世」「界」、「中」「華」「麻」「雀」、「公」「司」「監」「製」なども使われた。これらが整理される中で今日の「花牌」のパターンができた。その中で私が驚いたのは、「男」「女」「平」「權」、「文」「明」「結」「婚」という組合せの花牌である。欧米でもまだ先端的であった女性解放運動が中国中部でどのように発展していたのかは知らない。欧米諸国の植民地経営拠点であった租界で欧米の先端的な思想に触れたのであろうか。それとも、これは租界に住んでいた欧米人家庭の女性を顧客に狙った新商品だったのだろうか。
こうした混沌としたん状況は次のように整理できる。まず、「混子牌(百搭)」を四枚、「季花牌」を四枚で合計八枚というパターンが多い¹。「春」「夏」「秋」「冬」、「梅」「蘭」「菊」「竹」の花デザインの牌を八枚使う場合には、どちらを「季花牌」にし、どちらを「混子牌」にするのかは当事者の決めることとなる²。このほかに、「混子牌」として「天官」「元宝」「猫」「鼠」ないし「天官」「元宝」「漁人」「魚」の四枚を用い、「季花牌」に「春」「夏」「秋」「冬」ないし「梅」「蘭」「菊」「竹」の四枚を用いるパターンも広く存在する。
「混子牌」が四枚、「季花牌」が八枚、合計十二枚のパターンがある³。「混子牌」には「百搭」が彫られており、「季花牌」には「春」「夏」「秋」「冬」と「梅」「蘭」「菊」「竹」の八枚をあてることになる。
まれに、「混子牌」が四枚、「季花牌」が十二枚、合計十六枚のこともある。「季花牌」は「春」「夏」「秋」「冬」、「梅」「蘭」「菊」「竹」、「財神」「元宝」「猫」「鼠」である⁴。
「混子牌」は廃止して、「季花牌」だけ残すパターンがある。八枚の地域では「春」「夏」「秋」「冬」、「梅」「蘭」「菊」「竹」という組み合せの他、「琴」「棋」「書」「画」、「晴」「耕」「雨」「読」、「山」「間」「名」「月」、「江」「上」「清」「風」、「江」「村」「斜」「影」、「楼」「外」「青」「山」、「嫦」「娥」「奔」「月」、「天」「女」「散」「華」、「中」「華」「麻」「雀」、「公」「司」「監」「製」、などが多用された。四枚の地域では、通常は「春」「夏」「秋」「冬」を充てるが、「梅」「蘭」「菊」「竹」を用いることもある。
こうしたパターンを生んだ地域差を特定できると良いのであるが、なかなかに困難で、たとえば「天官」「元宝」「漁人」「魚」が華北で、「天官」「元宝」「猫」「鼠」が華中で、「猫」「鼠」「鶏」「百足」が華南、東南アジアと考えられるがこれとても推量に過ぎない。もっと多くの資料を発見する必要がある。
今日でも江蘇省で製造されている麻雀紙牌のなかに、「春」「夏」「秋」「冬」、「梅」「蘭」「菊」「竹」のほかに「皇」の札が四枚含まれているものがある。使用地が判然とせず、どのような機能をもたされた牌であるかは不明である。
¹ 那崇徳『麻將牌通用手冊』、学苑出版社、一九八八年、五頁。双佳『麻將技巧』、上海文化出版社、一九八七年、八頁。方牧凡石『中国牌--麻將的打法与技巧』、北京体育学院出版社、一九八七年、一七頁。沙舟等『麻將牌遊戯入門』、河北科学技術出版社、一九八六年、三頁。許申玉『麻將技巧問答』、青島出版社、一九九〇年、二頁。
² 呉越『怎様打麻將』、宝文堂書店、一九八七年、二六頁。
³ 忠源等『中国麻將牌打法』、吉林科学技術出版社、一九八七年、七頁。
⁴ 張普生『怎様打麻將』、安徽科学技術出版社、一九八七年、一〇頁。